第五十一話 妹エンカウント
「なんで……なんでお兄ちゃんと、手を繋いでるんですか……真冬お姉様?」
と、聞こえてくる少女の声。
陸がそちらへ振り返ってみると、そこに居るのは陸の妹——獅童奈々。
奈々は感情の見えない瞳で、陸と真冬の方をじっと見つめてきている。
やばい。
やばい気がする。
だってこれ、どこかで見たことのある目だ。
具体的に言うとそう。
(危ない時の澪にそっくりだ……)
陸への好きが溢れてしまっている時の澪。
陸と一緒にいるのを邪魔された時の澪。
今の奈々の目つきは、そんな澪にガチでそっくりなのだ。
故にやばい。
そんな時の澪と対峙した時、陸はたいていろくな目に遭っていないのだから。
(実際、ついさっきも監禁されてたわけだからな……で、でも今回はまだ大丈夫)
なんせ、奈々は妹だ。
陸は奈々のことをそれなりに理解している自負がある。
頑張れば彼女のメンタルを落ち着かせるくらい、できるに違いない。
それになにより。
今の陸には真冬が——。
「あ、あわあわあわわわわわっ」
と、なにやらテンバりまくっている真冬さん。
うん、なるほど。
(真冬が咄嗟の事態にテンパるのを忘れてた……仕方ない、ここは俺一人で奈々に話をつけるしかない)
やや想定外の事態だが、そこまで問題ではない。
とりあえ目指すべきゴールはあれだ。
(言動と澪っぽい表情からさっするに、奈々は『俺が真冬の彼氏』って疑ってるよな?)
要はその誤解を解けばいいのだ。
簡単簡単——だって、嘘でもなんでもなく陸と真冬は付き合っていないのだから。
「奈々、よく聞いて欲しい。俺は——」
「『私には大切な人がいる』って、そう言ってたけど…….まさかお兄ちゃんのこと!?」
と、陸の言葉を断ち切るように言ってくる奈々。
瞬間、陸はとあることに気がついてしまう。
(まさか真冬、俺と同じ状態だったのか!?)
今日だけで奈々に何回も告白され、何回も爆死してループのどん詰まり。
その結果。
(苦肉の策を使ったのか!?)
すなわち。
陸が澪に言った『真冬が好きだ』発言。
(話からすると、俺と違って特定の名前は出してないみたいだけど……まずい展開だな)
大切な人が居ると発言したのち逃亡した真冬。
その先でそんな真冬が陸と手を繋いでれば——。
「お姉様……お兄ちゃんと付き合ってるの?」
とまぁ、奈々がこう勘違いするのも当然だ。
とりあえず否定だ。
否定しないとなんかやばい気がす——。
「そ、そうよ」
と、陸の思考を断ち切るように聞こえてくる真冬の声。
彼女はテンパりまくった様子で、陸が止めるより先に奈々へと言ってしまうのだった。
「わ、私はり、陸と付き合ってるの……だ、だからあなたとは付き合えないのよ!」
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