第五十話 異変

 どうやら、真冬と奈々は駅近くの公園に居るようだ。

 故に陸は現在、公園へ向けて全力ダッシュ中なのだが。


(おかしい……どうして奈々の奴、あんなに息切れしてたんだ?)


 陸が電話した際。

 奈々はまるで全力疾走中かの様に、息がめちゃくちゃ荒かったのだ。


(しかも、遠くからパニクった様子の真冬の声も聞こえていたような……)


 無論、陸の気のせいの可能性もある。

 なんせ陸が奈々に聞いたところ、息切れしたまま『別になんでもないんだからね!』と言っていたからだ。


(ただ、なんか普段の奈々と違う感じがしたんだよな。なんと言うか……取り繕ってる感じがしたというか)


 まぁなんにせよだ。

 今は急いだ方がいい。

 澪に先を越されたら事だ。


 などなど。

 陸がそんなことを考えている間にも。


(よし、着いた……公園の入り口だ!)


 陸はすぐさま公園へと突入。

 先ほど奈々が居ると言っていた、噴水広場前に——。


 ドンッ!


 と、陸は何かにぶつかって尻餅をついてしまう。

 同時。


「痛ぅ……ちょっと、どこ見て——陸?」


 と、聞こえてくる女の子の声。

 見れば、陸のすぐ目の前で真冬が尻餅をついていた。


 いったいどうして彼女が一人でここに居るのか。


 まぁいい。

 今はそれよりも先にしなければならないことがある。


 陸はすぐさま立ち上がり、真冬へと手を差し出す。

 そして。


「ごめん、急いでたから。どこも怪我はない?」


「えぇ、ないわ……私こそごめんなさい」


 と、陸の言葉に対し言ってくる真冬。

 彼女は陸の手を取ると、そのまま彼へと言葉を続けてくる。


「一応聞きたいのだけれど、澪との件はうまく行ったのかしら?」


「…….ごめん」


「別に謝る必要なんてないわよ。というか、その言い方ってことは、そっちも上手く行くなかったみたいね」


「ってことは、真冬も?」


「えぇ、もう阿鼻叫喚よ……今日だけで少なくとも200回はタイムリープしたわ」


「……」


 なるほど。

 要するに陸も真冬もただの失敗どころか、大失敗だったわけだ。


 などなど。

 陸がそんなことを考えていると。


「っ……そうよ! ここで話してる場合じゃないわ!」


 と、聞きえてくる真冬の声。

 彼女は陸の手を握ってくると、すぐに言葉を続けてくる。


「早くここから逃げないと! 奈々が……あなたの妹に追われているのよ!!」


「それって……」


「今あなたが想像した通りよ、もうやばいわ。追いつかれたら、いつ告白されてもおかしくないわ!」


 それはたしかにやばい。

 陸としても『真冬と合流』という目標は果たした。

 故にここは真冬に従った方が無難に違いない。


「ほら、早く行くわよ!」


 と、陸の手を引いてくる真冬。

 その瞬間。


「なんで……なんでお兄ちゃんと、手を繋いでるんですか……真冬お姉様?」


 などと。

 そんな奈々の声が聞こえてくるのだった。

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