第四十九話 脱出

「くそっ! ダメだ、全然解けない!」


 と、陸は思わず声に出してしまう。

 理由は簡単。


 陸を椅子に縛り付けている縄が、死ぬほど頑丈なのだ。

 いったい澪、どんな結び方をしたのか。


(これ、もう自力で解くのは無理だ)


 このまま時間をかければ、澪が真冬の元に到達してしまう可能性が高い。


(澪は真冬の居場所を知らないし、何をしてるかも知らない。だから、時間の余裕はまだあると思うけど)


 そんなの希望的観測だ。

 澪が真冬に電話して、居場所を聞き出したら終わる。


 要するに。

 陸は急ぐ必要があるのだ。

 それも猛烈に。


(とりあえず、考え方を変えよう。自力で解くのが無理な以上、他の何かに頼るんだ)


 例えば道具を使うとか。

 幸い、この怪しい地下室には怪しい道具が、たくさん壁にかけられて——。


「っ……あれだ!」


 と、そんな陸の視線の先にあるのはノコギリ。

 あれにどうにかして、縄をこすりつけ続ければワンチャンあるのではないか。


(ワンチャンとかどうかじゃない! 時間もないし、もうあれで決めるしかない!!)


 などなど。

 陸はそんなことを考えた後、椅子ごと這いつくばって、ノコギリの元へと向かうのだった。



 ……。

 …………。

 ………………。



 さて。

 結果から言うと。


「クソっ! うまくいったけど、予想以上に時間かかった!」


 あれからおよそ十数分後。

 現在、陸は澪の家から脱出——玄関の前に立って、スマホを取り出し操作していた。


 その理由は簡単。

 真冬に電話して、彼女の居場所を聞き出すためだ……しかし。


「あーもうっ! なんで話中なんだよ!?」


 かからない。

 そして、このタイミングで真冬が話中なのに、心あたりがありまくる。


 澪だ。


 大方、ダッシュで真冬の家に向かった澪。

 彼女は真冬が家に居ないと見るや、すぐさま真冬に電話したというところだろう。


 そう。

 要するに今、澪は真冬に電話して居場所を聞き出しているのだ。

 だからこその話中。


(相当やばい展開だぞ、これ!)


 どうする。

 澪と真冬の電話が終わってから、折り返し真冬に電話したのでは、圧倒的に出遅れる。


 澪が今どこにいるのか知らないが——澪が先に真冬の元へ到着してしまう可能性が非常に高い。


(あの澪の剣幕、それは絶対に避けたい)


 澪が真冬を傷つけるとは思えない。

 だが、ひょっとしたら『監禁調教しちゃった♪』くらいのことはする可能性はある。


(俺が不用意に『真冬が好きだ!』とか言ったせいで、真冬が監禁調教されたら……うん、申し訳なさすぎる)


 どうする。

 どうすれば——いやまてっ!


(奈々だ! 真冬は今、奈々とのデート帰り……ってことは、奈々と一緒に居るってことだ!)


 だったら、奈々に電話すればいい!

 奈々から居場所を聞けば、それすなわち真冬のいる場所。


 となれば話は早い。

 陸はそんなことを考えた後。


「出てくれよ、奈々!」


 自らの妹。

 獅童奈々へと電話するのだった。

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