第四十八話 好きな人②

「澪、俺には好きな人がいる。だから、俺は澪と——澪が思っているような関係にはなれない」


「好きな……なに?」


 と、陸の言葉に対しキョトンとした様子の澪。

 陸はそんな彼女へと言葉を続ける。


「俺には好きな人がいるんだ。だから、誰かと付き合ったりすることは出来ない」


「……」


「澪の気持ちは嬉しい。だけど、俺は俺の気持ちを裏切ったりすることはできない」


「……」


「ましてや、澪に嘘をついて澪と付き合うなんて、そんな不誠実なことはできない」


「……」


「だってそんなの、澪のことを侮辱してることになる」


「……」


 澪は何も言ってこない。

 やはり怒らせてしまったに違いない。


(当然、だよな。だって今まさに嘘ついて、澪のことを侮辱してるんだもんな)


 陸に好きな人なんていない。

 いや、居ると言えば居る。


(俺は澪のことが好きだ。認めよう……何をされても、どんな性格でも俺は澪が好きだ)


 だけど、澪とこのまま付き合うわけにはいかない。

 全員が不幸にになるから。


 などなど。

 陸がそんなことを考えていると。


「誰だ?」


 と、ボソリとつぶやいてくる澪。

 彼女は俯いたまま、陸へと言葉を続けてくる。


「うちが知っている人か?」


「え、うん……まぁ」


「誰だ? 陸は誰が好きなんだ?」


「……」


 やばい。

 考えてなかった。


(俺、誰が好きってことにすればいいんだ!?)


 そもそも名前を知っている女性が少なすぎる。

 考えろ、全力で考えろ。


「陸?」


 と、何やら疑った様子の澪の声。

 もう時間がない。

 こうなったら仕方ない。


(えぇい! 名前を借りるぞ、すまん!)


 と、陸はその人物に心の中で謝罪。

 その後、澪へと言う。


「真冬」


「……ま、ふゆ?」


「俺が好きなのは、生徒会長の音色真冬だ」


「うちの、大切な……幼馴染の、真冬?」


「あぁ」


 もちろん嘘だ。

 陸は真冬に恋愛感情など抱いていない。

 大切な戦友とは思っているが。


(なにはともあれ、真冬の名前を出したのは正解かもしれない)


 澪にとって真冬は親友だ。

 そんな真冬相手ならば、澪も諦めてくれ——。


「真冬……っ」


 と、陸の思考を断ち切るように聞こえてくる澪の声。

 彼女はどこともないどこかを睨みつけると。


「真冬真冬真冬真冬真冬真冬真冬真冬真冬真冬真冬真冬真冬真冬真冬真冬真冬真冬真冬真冬真冬真冬真冬真冬真冬真冬真冬真冬真冬真冬真冬真冬真冬真冬真冬真冬真冬真冬真冬真冬真冬真冬真冬真冬真冬真冬真冬真冬真冬真冬真冬真冬真冬!!」


 走り出した。

 凄まじい速度で部屋から出てった。


「……うん」


 なんかこれ。

 やばくね?


 嫌な予感しかしない。


(いや、ボケっとしてる場合じゃない! 絶対やばい! 追いかけないとやばい! 予想外の事態だぞこれ!?)


 などなど。

 陸はそんなことを考えた後、バタバタと暴れるのだった。

 拘束を解くために。

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