第四十七話 好きな人

「っ!!」


 と、陸は周囲を見回す。

 すると見えてくるのは相変わらずの地下室。

 そして、横倒しになった視界と、椅子に縛りつけられた身体。


 間違いない。

 陸は再び死に戻りし、暴れて椅子を倒してしまった時間に戻ってきたのだ。


(もう何度もこのループを繰り返したから、俺にはわかる——あと少ししたら、澪がこの部屋に入ってくる)


 そして、陸はめちゃくちゃ気持ちいいことされる。

 だが、そうなるわけにはいかないのだ。


(あの未来を受け入れてしまったら、俺も真冬も……なんなら澪もどん詰まりだ)


 陸は告白されて死亡。

 真冬は精神的平静を欠いた奈々から、告白されて死亡。

 澪は目の前で陸の爆死を見てトラウマ。


 誰も幸せにならない。

 故に変える。


(作戦なら考えた。あまり使いたくないけど、あの誰も幸せにならない未来に……全員が不幸になる未来になるよりはマジだ!)


 などなど。

 陸がそんなことを考えたまさにその時。


 ガチャッ。


 と、聞こえてくる扉の開く音。

 そして、そこから入ってくるのは当然の如く澪だ。


 チャンスはここしかない。


 何百ものループの経験上。

 この先、なんか言っても黙っていても、澪はめちゃくちゃ気持ちいい事をしてくる。

 故に。


「澪! 俺のためにこんな事させてごめん!! ここに俺を連れてきたのも、全部全部俺のためなんだよな!?」


「陸……っ!」


 と、陸の言葉に対し感極まった様子の澪。

 彼女は陸へと言葉を続けてくる。


「嬉しい……うち、まだ何にも言ってないのに! それなのに陸は、うちのことを理解してくれてるんだな!?」


「当たり前だよ! だって、澪は俺にとって大切な友達なんだから!」


「……友達?」


「あぁ。まだ出会ってから短い時間しか過ごしてないけど、一緒にいて楽しいし…..俺にとって澪は——」


「違う! 何を言ってるんだ陸!? うちは陸の友達になりたいんじゃない!」


 と、これまでのループにない強い口調の澪。

 やはりこの話題に対する反応はこうなるようだ。


(だから、この作戦は使いたくなかったんだ)


 陸はバカじゃない。

 だから澪からの好意もわかる。

 そして、彼女が陸とどうなりたいのかもわかる。


(その上で『友達』なんて言われたら、怒るに決まってる)


 だがもうやるしかない。

 今からやるのは、陸の人生でたった一度しか使えない切り札。


(おまけに、うまくいくかどうかは五分)


 それでも賭ける。

 何度も言うように、このままの未来に進むと多数の死者を出してしまう。

 おまけに、生き残った者の心にも、致命的な傷を負わせてしまう可能性が高いからだ。


(そして、この最後の手段以外で、その最悪の未来を回避できないのは検証済みだ……だからもう、これしかないっ)


 というのは、所詮言い訳だ。

 陸が至らないからこんなことになってしまった。


(ごめん、澪。いつか方法を見つけて、絶対に償う……恨んでくれても構わない。もちろん、許してくれる必要なんかない)


 などなど。

 陸はそんなことを考えたのち、澪へと言うのだった。


「澪、俺には好きな人がいる。だから、俺は澪と——澪が思っているような関係にはなれない」

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