第四十三話 悠里澪②

「っ!」


 と、陸は周囲を見回す。

 死に戻りした後は、今がいつの時間か確認するのが最優先だからだ。

 そうして陸は理解する。


 時刻は夕暮れ。

 隣には腕に抱きつくようにくっついている澪。

 そしてそんな彼女は。


「陸を感じられる」


 と、そんなことを言ってくる。

 覚えている。


(忘れるわけがない! これ、告白したくる二秒前くらいに言ってきたフレーズじゃないか!?)


 たしかこのあと澪はこういうのだ。

 陸のことを下から上目遣いで見ながら——。


「うち、大好きな陸をいつも、いつでも側に感じていたいんだ」


 と、案の定聞こえてくる澪の声。

 やばい、というかこれまた死んだのでは。

 などなど、陸がそんなことを考えている間にも。


「愛してる。陸、うちと結婚してくれ」


 と、致命的なワードを言ってくる澪。

 同時。


 ボンッ!


 またしても間抜けな音を立てる陸の心臓。

 こうして再び陸の意識は闇の中へと落ちていく。



 ……。

 …………。

 ………………。

 ……………………。

 …………………………。

 ………………………………。


「っ!」


 と、陸は再び目を開ける。

 死に戻ったのだ。

 瞬間。


「陸を感じられる」


 と、聞こえてくる澪の声。

 やばい。


(このままだとまた告白される! 死に戻りは何回か経験したけど、こんな直前に死に戻りさせられたのは初めてだ!)


 どうする、どうすればいい。

 これでは対策を練っている時間が——。


「うち、だいす——」


「待った!!」


 と、陸はとりあえず澪の言葉を断ち切る。

 このまま告白されれば、また再び心臓が爆発するからだ。


(しかも今回に限っては、戻るのは数秒前! そんな無限ループに陥るわけにはいかない!)


 故に陸は瞬時に思考を回転させる。

 そして、何とか澪が告白してくるのを避ける方向へ話を持っていことする。



 なんて。

 考えていた時期が陸にもあった。


 さてさて。

 時間はとんで死に戻り289回目。

 結論から言おう。


 今回の澪は何をしても告白を中断しなかった。

 陸が途中で全裸になっても、普通に告白してきた。

 そしてその度、陸は死に戻ったのだ。

 もちろん同じ時間に——ほら今も。


「陸を感じられる」


 と、聞こえてくる澪の声。

 このあと、またあのフレーズが聞こえてくる。

 そして陸の心臓が爆発して死ぬのだ。


(もう無理だ……どうすればいいんだこんなの)


 死にたくない。

 もう痛いのは嫌だ。

 怖い。


「うち——」


 と、澪の口が動き出す。

 瞬間、陸の思考回路はぷっつんした。


「う、うわぁあああああああああああっ!」


 気がついたら走っていた。

 澪に背中を向けてダッシュ。

 イケメンとして最悪のクソ情けない行為。


 だがしかし。

 289回の連続死と、心臓の痛みはそれほどまでに陸の心を疲弊させていた。

 だから逃げた。


 走って走って。

 走って走って走って。


 陸は『死を避ける』という人間の本能のまま、全力で足を動かして続け。

 そして。


 バチチチチチチチチチッ!


 と、聞こえてくる音。

 同時、背中に走る一瞬の痛みと痺れ。


(なん……だっ!?)


 などなど。

 陸がそんなことを考え直後。

 陸の意識は闇の中に落ちていくのだった。

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