第四十二話 悠里澪

 デートで嫌われる作戦は大失敗だった。

 それどころか、澪の好感度をあげてしまった自信がある。


(それになにより、俺も澪を突き放しきれなかった感じがするし……はぁ、我ながら何やってるんだ)


 さてさて。

 時はあれから数時間後、夕暮れ。

 場所は陸達が住む街。


 現在。

 陸と澪は帰路についている最中だ。

 

(今日は収穫ゼロだったな。それどころか、なんだか澪をやばい方向に進化させちゃった気がする)


 帰りの電車に乗る時など、最後の最後まで『スク水首輪ランドセル』で居ようとした。


(まぁ、説得し続けたかいもあって、ちゃんと私服に戻ってくれたけど)


 そして、問題は他にもある。

 それは。


「り〜く♪」


 と、陸の腕を抱きしめるようにくっついているのは澪だ。

 彼女はぎゅーっと、豊満な胸を押し付けながら言葉を続けてくる。


「うち、今日はとっても楽しかった! 陸の色々な面を知る れて、お互いの仲が近くなったら気がするぞ!」


「俺も楽しかったよ」


 これは本当だ。

 作戦としては大失敗だが、普通に楽しかった。

 などなど、陸がそんなことを考えていると。


「なぁ、陸……他にうちに秘密にしてることはないか?」


 と、そんなことを言ってくる澪。

 彼女は陸の肩付近へ、頬をくっつけながら言葉を続けてくる。


「うち、陸がどんな趣味を持っててもいい……わかったんだ。自分の理想を押し付けるのは、子供の恋愛だって」


「う、うん」


「相手を受け入れて、理解することが本当の恋愛なんだ!」


「だ、だからどういう……」


「だから、うちに秘密にしてることがあれば、全部教えてくれ!」


「それって……例えば?」


「今日みたいな——陸の性癖とかだ! どんな髪型の女の子が好きで、どんな性格の女の子が好きかとか! あとあと、陸が何回トイレに行ったりとか、食事の時間やお風呂でどこを最初に洗うかとか! 全部教えてほしい!」


「いや、前半はともかく後半は何の参考にするんだよ!?」


「うちも同じようにする!」


「……はい?」


「陸がお尻から身体を洗うなら、うちもお尻から身体を洗うんだ!」


「それ、何の意味があるんだ?」


「陸を感じられる」


 と、優しげな表情でそんなことを言ってくる澪。

 彼女は陸を上目遣いで見つめくると、そのまま儚げな様子で微笑み言ってくる。


「うち、大好きな陸をいつも、いつでも側に感じていたいんだ」


「え、ちょ——今なんて」


「愛してる。陸、うちと結婚してくれ」


 聞こえてくる決定的なワード。

 直後、これまた聞こえてくる。


 ボンッ!


 という間の抜けた破裂音。

 同時、またしても陸の意識は闇の中に落ちていく。


 しかし、陸はこの時甘く考えていた。

 またやり直せばいいと、若干油断していた。

 陸には常に時間があるのだと。

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