第三十五話 変態的チェックメイト

 陸は目の前のショーケースのフィギュアへと目を向ける。

 それはただのフィギュアではない。


(この店のウリ! トレードマークの非売品!!)


 陸を救ってくれるに違いない女神。

 等身大、スク水ドスケベボディムチムチ猫耳フィギュアだ。


 陸はそんなフィギュアの足元へと跪く。

 そして彼はフィギュアをローアングルで見上げながら、なるべくデカい声かつ超早口で澪へと言う。


「このフィギュアすごいよね! 見てよあのムレムレのお股! スクール水着が食い込んでて、俺も興奮しちゃうよ! それにスク水なのに背負ってるランドセルと、首輪がついてるのが背徳的でいいよなぁ! はぁはぁ、あーもうなんか俺、このフィギュアの足を舐め回したくてまらねぇよ!! つま先から太腿の付け根まで、ベロォって何度も往復させたいね! んぉああああああああ! もう我慢できねぇ! 舐めたい舐めたい! 逆だいしゅきホールドしながらチューしてぇえええええ!」


 そこまで言った後。

 陸は仰向けになり、床を全力でバタバタ転げまわる。

 それこそ赤ちゃんのように。


(さぁ、どうだ……ここまでやって引かないわけがない)


 もしも陸が澪ならドン引きする。

 陸はそんなことを考えながら、チラリと澪を見る。

 するとそこにあったのは。


「……」


 虚無澪だ。

 もうゴミ以下の何かを見つめるような視線で、どこともないどこかを見て呆然としている。


 見た瞬間わかる。

 澪は陸にドン引きしたのだ。

 要するに完全に嫌われた。


 ミッションコンプリート。


 などなど。

 陸がそんなことを考えていると。


「陸……なんで、なんでこんなのが好き、なんだ?」


 と、なんとかといった様子で言ってくる澪。

 彼女は虚無の瞳を陸へと向けながら、そのまま言葉を続けてくる。


「こんなの、変態だ……エッチなフィギュアを見て、そんなにこうふんするなんて……嫌だ。うち、そんなの理解できない……なんで、どうして陸が」


「どうしてって? さっき言った通りだよ! 俺はスク水猫耳おにゃのこに興奮するんだよ!! お股の食い込みとか! 首輪とかランドセルとか! 澪もわかるだろ!?」


「わからない! うちにはわからない! 陸は……陸はうちの王子様だ! 王子様はエッチなことに興味ないし、完全な男性じゃないとだめなんだ!」


「このフィギュアだって完全だよ! 完全なドスケベムチムチボディの女性フィギュアだ!」


「っ……違う」


「違わないよ! ムチムチドスケベボディなんだよ!」


「もう嫌だ! うちはそんな話聞きたくない!」


 と、耳を塞ぎながら後ろに下がる澪。

 彼女は陸にそのまま言ってくるのだった。


「陸なんて……うち、陸のことなんて……もうっ!」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る