第十九話 放課後エスケープ

 昼休みは結局、互いの境遇や『どうしてこうなったのか』を話している間に終わってしまった。

 要するに、陸にとっては澪を……真冬にとっては奈々をどうにかする方法は話せなかった。


 そうして現在。

 話せないまま昼休みは終わり、それから時間は過ぎて放課後。

 場所は教室——ホームルームも終わり、今から帰るところなのだが。


「り〜く♪」


 と、聞こえてくるのは澪の声。

 見れば、陸の席までわざわざやってきてくれた様子の澪。

 彼女はニコニコ笑顔で、陸へと言葉を続けてくる。


「これから暇か?」


「まぁ暇だけど……」


「本当か!? ならうち、今日は陸と一緒に帰りたい! いっぱいお話しながら帰るんだ!」


「……」


 ど、どうする!?

 これはよく考える必要がある。


(もちろん、一緒に帰りたい! 澪とは色々お話しながら帰りたい!)


 あわよくば。

 よくリア充イケメンがしている様に、帰りにカフェでおしゃべりデートとかしたい。

 だがしかし。


(先日のアウトレットモールでの一件を考えると、それも相当やばい気がする)


 なんせ、アウトレットモールの帰りに澪は告白して来てくれたのだ。

 ということは。


(自意識過剰かもしれないけれど、『澪の俺への好感度』はすでにMAXに近いということ……っ!)


 要するに。

 なにかキッカケがあれば告白してくる状態だ。

 そんな中。


(一緒に帰って大丈夫か!? カフェとか言って大丈夫か!?)


 大丈夫なわけがない。

 ならば断るしか——。


「おい獅童! なんか担任が呼んでたぞ〜」


 と、陸の思考を断ち切る様に聞こえてきたのは、クラスメイトの声。

 ちょうどいい。


 などなど。

 陸はそんなことを考えたのち、澪へと言う。


「ごめん……そういうことだから、今日はちょっと一緒に帰れそうにない」


「そっか……うち、残念だ」


 と、シュンとした様子の澪。

 陸はそんな彼女に再度謝った後、席を立って教室を出——。


「っ!」


 と、突如背後から感じる悪寒。

 と言うより殺気。

 

(なん、だ……これ!?)


 全身から冷や汗が噴き出る嫌な感覚。

 陸がそれに思わず振り返ると、そこにいたのは。


「……」


 と、真っ暗で虚無色の瞳を、先のクラスメイトに向けているのは澪だ。

 そんな彼女は声を出さず、ゆっくりと口元を動かすのだった。


「(邪魔者……ゆるさない)」

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