第十七話 もう一人のタイムリーパー

 あの後。

 陸は真冬とすぐに話したかった。

 無論、それは真冬も同じ様子だったのだが。


(まぁ、お互いビショ濡れだったからな)


 あのまま話すのは困難と判断し、詳しいことを話すのはまた後日となった。


(風邪でも引いたらことだしな)


 というわけで。

 時は翌日の学校——昼休み。

 現在、陸は生徒会室へとやってきていた。

 その理由は簡単だ。


「よく来てくれたわね。人払いはしてあるから、昼休み中は誰もここへは来ないわ」


 と、聞こえてくるのは真冬の声。

 陸はそんな彼女へと言う。


「それにしても音色さんは——」


「呼び捨てでいいわ。あと、苗字で呼ばれるのは慣れないから、真冬って呼んで」


「えっと……ま、真冬」


「…….」


 と、なぜかそっぽを向いて頬を染めている真冬。

 これはあれだ。


(も、もっとフランクな感じで呼ぼう。重い感じで呼ぶから、なんだか照れ臭くなるに違いない! イケメンならできる!!)


 などなど。

 陸はそんなことを考えたのち、真冬へと言う。


「さっきの話だけど、真冬は本当にすごいね。二年生の前期からいきなり生徒会長になれるなんて」


「当たり前よ。タイムリープで得られた知識と、この美少女の身体があれば、たいていのことは簡単にできるわ」


「その口ぶり、やっぱり真冬は俺と同じ境遇ってことか」


「世間話もなんですし、そろそろ本題に入りましょうか?」


 と、そんなことを言ってくる真冬。

 そうして、陸と真冬は互いの境遇を語り始める。

 なお、真冬の話をまとめるとこんな感じだ。


 美少女化する前。

 真冬は陸同様、陰湿なイジメに遭っていたそうなのだ。

 そして件の橋での飛び降り——ブサメンだった頃の陸が、真冬を助けようとして失敗した一件に繋がるわけだ。


 あの時。

 失敗して溺れた陸が、気がついたらイケメンになっていたのと同様。

 溺れた真冬は気がついたら美少女になっていたそうなのだ。


 そしてこれもまた陸と同じく。

 二年生の最初に戻っていたそうなのだ。

 それも『告白されたら心臓が爆発する』という呪いをかけられて。


(まさかここまで一致しているなんてな)


 だがしかし。

 陸にはまだ気になることがある。


「どうして美少女になった後も、また橋から飛び降りようとしていたの?」


「そんなの決まってるでしょ」


 と、陸の言葉に対して言ってくる真冬。

 彼女はそのまま彼へと言葉を続けてくる。


「美少女化したから、色々な男や女にめちゃくちゃ粉振り撒いたのよ」


「……」


「そしたら、色々な人から告白されまくり。その結果どうなったと思う?」


「心臓が爆発しまくった?」


「そうよ。年下の可愛い男の子や女の子から告白される度、心臓が爆発しまくったのよ! 多い日で一日十回とか普通にあったわ」


「それって自業自得じゃ……」


「なによ! 美少女になったら、することなんてそれに決まってるでしょ!?」


「うぐっ」


 まあ確かに、陸も似たような気持ちがないわけではない。

 けれどこれでようやくわかった——真冬が昨日、橋で言っていたことが。


(彼女はそのままの意味で、もう心臓の痛みに耐えられなくなったんだろうな)


 告白されまくって、心臓が爆発しまくる痛み。

 そんなの耐えられるわけがない。


(俺はまだ二回しかその痛みを経験してないけど、それでもかなりこたえてるからな……)


 などなど。

 陸がそんなことを考えていると。


「でもまぁ、今の私のポテンシャル持ってすれば、告白してくる前に相手を諦めさせることなんて容易よ」


 と、そんなことを言ってくる真冬。

 陸はそんな彼女へと言う。


「え、だったらどうして川になんて……」


「一人、何をしても諦めない奴がいるのよ」


「それって……」


「獅童奈々。陸くんの妹よ」


「……え〜」


「今日話したい本題というのは他でもないわ。奈々をどうにかするのを手伝って欲しいの」

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