第十六話 イケメンは助けてみた
時はあれから少し後。
場所は川沿い。
「う……けほっ、けほ」
と、隣で咳き込んでいるのは件の少女だ。
黒髪ロングに発育のいい身体。
要するにそう。
(今度は助けられてよかったぁ……っ)
さすがはイケメンの身体だ。
息切れひとつせず、まるで魚になったかのように水中を簡単に泳げた。
それも暴れる女の子を助けながらだ。
イケメンになってこれほどよかったことはない。
別人とはいえ。
同じようなシチュエーションで、助けられなかった女の子を助けられたのだから。
だがしかし。
ガシっ!
と、掴まれる陸の手首。
見れば、件の女の子が息を整えながらも、何故か陸の方を睨んできている。
そんな彼女はそのままの様子で、彼へと言葉を続けてくる。
「なんで、助けた……のよっ!?」
「お礼は大丈夫。俺は当然のことを——」
あれ。
今なんか、想定と違う言葉をかけられた気が。
「私は……死にたかったの! なのになんで助けたのよ……そうよ、今からでもまだ!」
と、そんなことを言ったのち、立ち上がる女の子。
彼女は何かに取り憑かれように、川の方へと歩き出す。
「って、何やってんだよ!?」
言って、陸は女の子を後ろから抱きしめ。
全力ホールド——やや乱暴だが仕方ない。
なぜならば。
「放して! 死なせて! これ以上生きていても、苦しいだけなの!」
と、予想通りの言葉を吐いてくる女の子。
やはり彼女を離すわけにはいかない。
とりあえず説得だ。
女の子の考えをどうにかしなければ。
故に陸は彼女へと言う。
「なんでそんなに死にたいんだよ!?」
「あなたに言ったって、わかるわけないわ! いいから離して……離しなさい!」
「死にたい気持ちならわかる! 俺だって何回も虐められて、リンチされて、何度も死にたくなった! それでも——」
「それがなに!? そんなこと、私にだって経験があるわ! それで死んだって誰も得しないし、死んだら虐めてる側が笑うだけだって……そう言いたいんでしょ!?」
「なら——」
「私はようやくその日々から解放されたの! この身体を手に入れて、勝ち組になれたの!」
「……それって」
「それなのにこんな……あなたにわかる!? 告白される度に胸が破裂する気持ち……あの痛みが、あなたにわかるの!?」
わかるの?
っていうか、ちょっと待った。
さっきからこの女の子は何を言っているのか。
だって。
(なんで俺に今現在起きてる境遇を、まるで自分のことのように語るんだ?)
まさか。
まさかとは思うが。
(この女の子も『告白されたら死ぬ』呪いにかかってる? そして俺と同じく、その度にタイムリープしている?)
先ほどの言動からすると、そう考えるしかない。
などなど、陸がそんなことを考えていると。
「私が頭のおかしい女だと思っているんでしょ!? だったら私に告白してみなさいな!」
と、そんなことを言ってくる女の子。
彼女は陸の方をキッと睨みながら、そのまま言葉を続けてくる。
「ほら、告白なさいな! あなたの目の前で心臓を破裂させて死んであげるから! それで、戻った先で人知れず死ぬからいいわよ!」
「いや、ちょ——」
「早くしないよ! 私、こんなに可愛いのよ!? 告白しないなんてあり得ないでしょ!?」
「だから……」
「だから何よ! なんなのよ!?」
と、やたら興奮した様子の女の子。
陸はそんな彼女へと言う。
「俺もなんだよ! 俺も心臓が爆発するんだ!
「ひょっとして……それがあなたの告白の仕方? えっとその、この身体になってから何度も告白されたけれど……その告白の仕方はんというか……斬新と言うか、センスがないというか」
「いや、告白じゃねぇよ!! まぁある意味告白だけど、愛の告白とかじゃないからな!? 俺の秘密を打ち明けてるんだよ!」
「……っ!」
と、陸の顔面に後頭部でヘッドバットしてくる女の子。
彼女は陸の隙をついて、再び川へと走り出してしまう。
どうあっても死にたいに違いない。
そして、陸の話も信じていないに違いない。
というか。
(鼻いてぇえええっ!)
どうやらイケメンでも痛いものは痛いに違いない。
とはいえ、今やるべきことは一つ。
なんとしでも、彼女の意識をこちらに向ける。
そのために、陸は己が境遇の全てを語る決意を固める——そうすればきっと、似た境遇にある陸の話を聞こうとするに違いないのだから。
「俺は死んだ! 少し前、同じように橋から川に飛び込んだ女の子を助けようとして! それで失敗して死んだんだ!」
「っ」
と、陸の言葉に対しぴたりと立ち止まる女の子。
彼はそんな彼女へとさらに言葉を続ける。
「そう、死んだのに気がついたら、イケメンになってた! しかも時間も二年生の最初に巻き戻ってたんだ! それで俺は——」
「獅童……陸?」
「え? 俺の名前、どうして。まだ名乗ってなかったと思うけど」
「そう、そういうこと……私以外にも居たのね、タイムリーパー」
言って、こちらへ振り返ってくる女の子。
意味のわからない言動に、陸が戸惑っている間にも——彼女はそのまま、陸へと言ってくる。
「
「は?」
「あなたが助けてくれた女の子の名前……この身体になってからと、この身体になる前——それぞれ一回づつね」
「それって、まさか」
目の前の少女。
真冬もタイムリーパーなだけでなく、身体が変わって——美少女化したということなのか。
(というかこれまでの言動から考えると、どう考えても……)
陸がブサメンの時に川で助けようとした女の子。
彼女と今目の前にいる女の子は、同一人物ということに違いない。
などなど、陸がそんなことを考えている間にも。
真冬は陸へと言ってくるのだった。
「どうやら私達、お互いに話し合う必要があるみたいね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます