第十話 初体験③

 人生初デート。

 イケメンになれてよかったと、心の底から思えた瞬間。

 それはまさしく至福の時でしたとさ。


 例えばとある洋服屋での一幕。

 それはこんな感じだ。



「陸、陸! これも見てくれ!」


 と、聞こえてくる澪の声。

 同時、試着室から元気よく飛び出してくる澪。

 彼女は試着している服のスカート部分を両手でつまむと、くるりと回りながら。


「えへへ、なぁなぁ……うち、どうかな?」


 と、笑顔で陸へと言ってくる澪。

 彼はそんな彼女へと言うのだった。


「うぅ…….かわいいっ!!」



 はたまた、ゲームセンターでの一幕。

 それはこんな感じだ。


「陸! プリクラ撮ったことないのか!? 大丈夫だ! うちが教えてあげる!」


 言って、陸のすぐ近くへやってくる澪。

 彼女はそのまま陸の肩へと、自らの顔をコテンと載せてくると——。


「あ、あんまりくっつくと少し恥ずかしいけど……上手に撮るためだからその……仕方ない、よな?」


「……」


「あ、ほら! カウントダウンが始まった! 陸ももっとくっつかないとダメなんだ!」


 言って、さらに体を寄せてくる澪。

 さっきまでですでにゼロ距離だったのだ。

 その上さらにくっつくとなれば。


(あ、当たってる……何がとは言わないけど、とっても柔らかいのが)



 さてさて。

 そうして時はさらにすぎて昼食時。


「陸、あ〜んだ!」


 言って、フォークに刺さったハンバーグを差し出してくる澪。

 彼女は首をひょこりと傾げながら、陸へとさらに言葉を続けてくる。


「どうしたんだ? ひょっとしてその……うちの『あ〜ん』、いやだったか?」


「嫌じゃない!!」


「本当か!? だったらうち、とっても嬉しいぞ! ほら、あ〜ん!」


「あ、あーん」


 神だった。

 女神だった。


 悠里澪。


 こんなに優しくて可愛らしい女の子が居るなんて。

 そして、そんな子とデートしているなんて。


(信じられない……これがイケメンの力。幸せすぎてやばいっ!)


 陸はそんなことを考えたのち。

 一人心の中で、ガッツポーズをするのだった。


 

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