第九話 初体験②

「お、おはよう……っ! 朝から獅童くんの顔を見れてその…….うち、嬉しい! 今日はよろしく、だ!」


 と、言ってくるのは澪だ。

 そんな彼女は当然の如く制服ではなく私服——白のワンピースを着ている。

 相変わらず可愛い。


 以前の陸からしたら、こんなに可愛い女の子から挨拶されるだけで奇跡だ。

 しかも『陸の顔見れて嬉しい』とか言ってくれてる。


(うぅ……嬉しくて泣きそうだっ)


 だがしかし。

 今は泣いている場合ではない。

 イケメンはこういう時に、言わなければならない言葉があるのだ。


「待たせてごめん! どれくらい前から着いていたの?」


「そんなに待ってないから大丈夫だ!」


 と、陸の言葉に対して、にこにこ笑顔で返してくる澪。

 陸はそんな彼女へとさらに言葉を続ける。


「ひょっとしてだいぶ待った? 俺に気を遣わなくていいから、よかったら教えてくれないかな」


「えっと……さ、三時間前」


「っ!?」


「あ、でも違うんだ! 陸は何にも悪くないんだ! うちが陸と合うの楽しみで……あ、あぅう……名前、呼び捨てにしちゃった……っ」


 と、顔を真っ赤にして俯いてしまう澪。

 そんな彼女はおずおずとした様子で陸の方を向いてくると、そのまま彼へと言葉を続けてくる。


「名前で呼んでも、いいか? うち、親しくなりたい人はその……なるべく名前で呼んでるんだ」


「……」


「だ、ダメだったらいいんだ! うち、陸に嫌われるようなことは……あっ、また名前で呼ん——」


「いい……」


「え?」


「全然名前で呼んでくれていい」


 言って、陸は内心ガッツポーズする。

 その理由は簡単だ。


(うぉおおおおおおおおおおお! 女の子に名前で呼ばれたぁああああああああああああああああああああああああああ!)


 イケメンはこんなことで喜んだりしない。

 こんなことで喜ぶのはキモメンだ。

 そんなことわかってる。

 だけど。


(それでも嬉しぃいいいいいいいいいいいっ!!)


 などなど。

 陸が内心で爆泣きしていると。


「あ、あのな……その。あと一つお願いがあるんだ……いい、か?」


 と、再び聞こえてくる澪の声。

 彼女は照れた様子で、陸へとさらに言葉を続けてくるのだった。


「うちのことも澪って……名前で呼んで欲しいんだ!」

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