第八話 初体験

 時はあれから数日後、日曜日。

 場所は駅近くにあるショッピング向かう道中。

 現在、陸がそうしている理由は簡単だ。


(デート……デート、デートっ!)


 人生初デート。

 デートが初デートすぎて、デートだからデートのことしか考えられない。


(これ、ひょっとして俺……告白とかされるのでは)


 いやまて。

 その考えに至るのはまだ早い。

 そもそもだ。


(俺は確かに悠里さんを助けた。そこから一足飛びに『告白される』っていう思考に至るのは自意識過剰だ)


 典型的なキモメン思考。

 今の陸はイケメンになったのだ。

 いつまでもキモメン思考を引きずってはダメだ。


(内面も身体に釣り合うように、早くイケメンにならないと!)


 そうだそうだ。

 冷静に考えれば、きっと今回のデートはお礼なのだ。


(悠里さんは優しそうな子だからな。きっと俺が助けたことで、『なにか恩返ししないと』って考えたに違いない)


 そこで澪が咄嗟に考えたのがデート。

 きっと彼女は今回のデートで、陸に色々恩返し連打をかけてくるに違いない。


(うん、辻褄が合うな。だとすると、悠里さんは今回のデートで俺に色々奢ってくる可能性がある)


 イケメンとしてはそれは避けなければ。

 陸は知っている。


(イケメンは奢られない。そして、奢りもしない)


 割り勘だ。

 付き合っている人なら話は別だが。

 友達相手ならば、割り勘が一番相手に気を遣わせないそうなのだ。


 などなど。

 陸がそんなことを考えている間にも、どんどん近づいてくるアウトレットモール。


(っと、もう入り口が見えてきたな)


 澪との待ち合わせ場所は、アウトレットモール入り口だ。

 問題があるとすれば。


(人生初デートということで、あまりにも気合を入れすぎてしまった……よく考えたら、まだ待ち合わせ時間の一時間前なんだよな)


 仕方ない。

 イケメンとして、澪を完璧にエスコートできるようにするべきことをしておこう。


(時間はまだあるし、先にアウトレットモールの下見でもして——)


 と、そこで陸の思考は途切れる。

 その理由は簡単だ。


「獅童くん!」


 と、前方から聞こえてくる澪の声。

 見れば、彼女は陸へと手を振った後。

 たたっと元気よく陸の方へとやってくると、そのまま彼へと言葉を続けてくるのだった。


「お、おはよう……っ! 朝から獅童くんの顔を見れてその…….うち、嬉しい! 今日はよろしく、だ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る