第十一話 そうして初めての……

 時はあれから数時間後、夕方。

 場所は公園。


 現在、陸と澪はアウトレットモールからの帰り道——近道になる公園を通っているというわけだ。

 さてさて、それにしても。


(今日は楽しかった。何もかもが初めての体験で、本当に夢のような1日だったな。何度も思うけど改めて……イケメンになれてよかった)


 などなど。

 陸がそんなことを考えていると。


 ぎゅっ。


 と、唐突に引っ張られる陸の服。

 みれば、澪が立ち止まって、陸の服の裾を引っ張っていた。

 彼はそんな彼女へと言う。


「どうしたの?」


「あ、あのな……その」


「ひょっとして、どこか痛いところがあったりする? 今日は結構歩いたから——」


「ち、違う! そうじゃないんだ! ただその……」


「?」


「う、うぅ……」


 と、頬を真っ赤に染めて俯いてしまう澪。

 いったいどうしたのか。


(今の俺はイケメンだ! こういう事態もちゃんと対処しないと!)


 考えろ。

 まず澪は顔が赤い。

 そして俯いている。


(痛み関連じゃないとすると……熱、じゃないか?)


 疲れから発熱した。

 とかなら、十分以上にある。

 だとすれば、このまま歩き続けるのは——。


「陸! うち、やっぱり言う! ここで言わないと後悔しそうだから!」


 と、陸の思考を断ち切るように聞こえてくる澪の声。

 彼女はまっすぐに陸の方へと顔を向けてくる。

 続けて、彼女は未だ真っ赤な頬のまま、彼へと一生懸命な様子で言葉を続けてくる。


「陸……うち、うちな。その……陸がうちのこと助けてくれてから、なんか……陸のことを見ると、胸がきゅってなって」 


「……」


「うち、陸のが好きみたいなんだ! 言葉が出なくなるくらい好きで……だから、だから!」


 言って、陸の手を両手で覆うように掴んでくる澪。

 彼女はそのまま、涙混じりの瞳を陸へと向け、ほのまま言葉を続けてくる。


「うちの彼氏になってくれ! うちを、うちを陸の彼女にして欲しいんだ!」


「……」


 そんなの、答えは決まりきっている。

 ここまでストレートに好意をぶつけられて。

 今日一日一緒に過ごして。


(好きにならないわけが——)


 ズキッ!


 と、突如胸に——否、心臓に襲いくる凄まじい痛み。

 息ができない。


「あ、か——はっ!?」


 言葉が出せない。

 周りの音が聞こえない。


「〜〜! 〜〜〜っ!」


 と、澪が何か心配した様子で叫んでいるのが聞こえる。

 だがしかし、わからない。


 周囲の状況も、言葉も。

 自分自身のことすら理解している余裕がない。

 わかるのは痛みだけ。


(何だ、これっ!?)


 もう無理だ。

 立っていられない。


 陸がそんなことを考え、身体を地球の重力に任せたまさにその時。


 ボンッ!


 と、そんな間抜けな音が自らの胸の中から聞こえてくる。

 同時、陸の意識は闇へと落ちていくのだった。

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