第六話 イケメン執行

「今からイケメンを執行する」


 言って、陸は体育館裏——そこにいる全員の前へと姿を現す。

 そして、彼はすぐさま澪を取り囲んでいる男子生徒達へと言う。


「その子から離れろ。一方的な理由でその子の人生をめちゃくちゃにしようとして……恥を知れ」


「あ? 誰だてめぇ!」


 と、陸の言葉にすぐさま返してくる男子生徒の一人。

 彼は陸の方へと詰め寄ってくると、陸の首元を掴みながらさらに続けてくる。


「引っ込んでろよ。その幸せそうな顔面ボコボコにすんぞ」


「……」


 なるほど。

 怖っ。


 怖すぎてやばい。


 イジメられ経験ありの陸としては、今すぐにでもここから逃げ出したいほど内心ビビってる。

 けれど、そうするわけにはいかない。


 陸は目の前の生徒から、少し後ろにいる少女へと視線を移す。


 悠里澪。


 彼女は震えながら、俯きながら。

 それでも時折、なんとかといった様子で陸の方を見てきている。

 まるで救いを求めているように。


(いや違う。本当に助けを求めているんだ)


 そしてもし、陸が澪を助けなければ。

 助けるのに失敗してしまえば。


(悠里さんは昔の時間軸と同じように、ずっとイジメられて退学してしまう)


 助けてみせる。


(今の俺はイケメンなんだから。そう、イケメンはこういう時、困っている人を助けるものだ!)


 などなど。

 陸はそんなことを考えたのち。


「彼女に手を出すな」


 言って、陸は全力でその場にいる男子生徒達を睨みつけた。

 その瞬間。


「あ、がっ」


「うぐっ!?」


「ぅ……」


「あ……あぁっ!?」


 と、白目を剥いて足をガクガク震わせ始める男子生徒。

 彼らはやがて突っ伏すよに、地面へと倒れてしまう。


(すごいっ! 睨んだだけで相手を気絶させることができるなんて……これがイケメンの力なのか!?)


 納得だ。

 世の中のイケメンが、人を華麗に助けられる理由に納得できた。

 肉体のポテンシャルそのものが違うのだ。


(おっと、こうしてる場合じゃない! 早く悠里さんに声をかけてあげないと!)


 考えたのち。

 陸はゆっくりと、澪の方へと歩を進めるのだった。

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