27.機嫌
「あはは! すごい! 大漁!」
一つ目のクレーンゲームで数個のお菓子をゲットした後、その後もお菓子関係のゲームに挑戦し続けた。
言うほどの数が取れたわけではない。正直、掛けた金額からすると全然マイナスだ。
それでも、両手の掌にあふれるほどのお菓子に大満足だった。
「ふふふ~」
満足気に戦利品の一つのきな粉味のチロ●チョコを口にする。
「コウちゃんにもあげる~」
私は同じチョコをコウちゃんに差し出した。
「えらそうだな。取ったのは俺なのに」
呆れたような口調だが、顔は満足そうに笑ってる。
でも、なぜかチョコを受け取ろうとしない。
「いらないの?」
私は首を傾げると、
「いる。ちょうだい」
そう言って、口を開けた。
「はい?」
「なんだよ。それくらいいいだろ、折角取ってあげたのに」
「な、何言って・・・」
「チョコの包みから出すぐらいしてくれよ。お前は横でただ見てただけなんだから」
「そ、それとこれとは・・・」
「しかもダメ出しばっかり」
「う・・・」
「ほら、早く」
そう言うと、また口を開けた。
あーんとばかりに待っているコウちゃんに焦り、慌てて包みを剥がしてチョコを口に放り込んだ。
「美味っ。俺、きな粉味、好きなんだよな」
私も~、などと同調する余裕などない。
心臓が急に小刻みに動き出し、頬が熱くなる。
満足そうにチョコを食べているコウちゃんの顔が直視できず、思わず顔を逸らした。
その時だった。
「あれ? 幸司君じゃん!」
「あー、本当だ! 本田君! 珍しー、こんなとこで会うなんて~」
「あれ~、その子、誰~? あ! もしかして、例の彼女?」
私の知らない派手目な女の子三人がこっちに近づいてきた。
制服からして青桜学園だ。
優秀な進学校でもそこそこのギャルっているのね。
私はさっきの「あーん」の緊張が解けていない。
ドキドキしている心臓を押さえて、近づいてくる三人を見た。
三人の方は、コウちゃんには笑いかけているが、チラッと私の方を見るその目線はまるで値踏みしているようだ。
「なに~、何かイチャついてるカップルがいるって思ってたけど、まさかの幸司君とは」
「なんだよ、いいだろ、別に。へえ、お前らもよくここに来るんだ?」
冷やかしなどに全然動じず、コウちゃんは澄まして彼女たちに対応する。
「まあね~、プリ撮りに」
「二人は何してたの? プリ撮った?」
「ラブラブなの撮ってんじゃないの? うちらも混ぜてよ! 一緒に撮ろ!」
彼女たちの勢いに私は腰が引けた。
無意識にジリジリと後ずさりする。
それに気付いた一人が、私の顔を覗き込んだ。
「へえ、この人が彼女? ふーん、今までの彼女とタイプ違うね~」
そう言うと意味ありげにニヤッと笑った。
「はあ?」
コウちゃんが声を荒げた。
「えー、だって、今までの彼女って、ちょっと派手系って言うか~、もっとお洒落って言うかさ~」
そして、彼女はズイッと私に近づくと、
「うちらと同じ匂いって言うか、同じタイプって言うの? あんた、全然違うね」
小声でそう囁いた。
一瞬何を言っているのか分からず、ポカンと彼女の顔を見つめてしまった。
だが、すぐにその子から引き離された。
コウちゃんが私の腕を取って、自分の方へ引き寄せたからだ。
「余計な情報与えないでくれる? 人の大事な彼女に」
私はコウちゃんの背中に隠されたため、彼の顔が見えない。
だが、声で怒っているのは分かった。
「え~、なんで~? 別にいいじゃない~・・・そんなこ・・・と」
途中まで普通に話していたその子は、終わりの言葉が急に尻つぼみになった。
コウちゃんが怒っていることに気が付いたみたいだ。
「行くぞ、唯花」
コウちゃんはクルッと向きを変えると、私の手を取り、ズンズンとゲームセンターの出口に向かって歩き出した。
「ご、ごめんなさい、幸司君! 悪気は無くて・・・!」
背後から女の子の声が聞こえる。
でも完全無視を決め込んでいるのか、コウちゃんはズンズン歩いて行く。
それなのに私が振り向くわけにもいかない。
そのまま、足早にゲームセンターを後にした。
★
外に出て、新鮮な空気を吸って少し落ち着くと、今更ながら腹が立ってきた。
何? あの子! 何でコウちゃんに謝ってんの?
謝る相手が違うだろうが! 私だろ、私! 感じ悪い!
今カノに元カノの話を振るなんて! しかも比べるなんて、悪意しかない!
まあ、偽物ですけどね、どうせ!
ムスッとして歩く私をコウちゃんはチラッと見ると、
「悪かったな・・・。さっきは・・・」
珍しく素直に謝ってきた。
私はちょっと驚いて目を丸めた。
「なんだよ?」
「いや・・・、やけに素直だと思って・・・」
「そりゃ、そうだろ・・・。あれは無い。あれは気分害すわ・・・」
コウちゃんは小さく溜息を付いた。
私はそれを見て急に溜飲が下がった。
その上、なぜか気が大きくなって、ムクっと我儘な感情が顔を出した。
「うん! 感じ悪かった! すっごく気分害したわ!」
フンっと思いっきり顔を背けた。
「もしかして機嫌悪くなった?」
「うん! めちゃめちゃ機嫌悪い!」
本当はもうどうでもいいのに、明後日の方向を睨みつけて、コウちゃんと目を合わさないでいると、
「せっかく機嫌直ったと思ったのに、また振り出しかよ・・・」
隣からはあ~と大きなため息が聞こえた。
「どうすれば機嫌直してくれますか? お姫様」
その言葉だけで私の優越感は十分に満たされた。
でも、物のついで。
「あれで手を打ってあげる」
私は近くのたい焼き屋を指差した。
「粒餡ね」
「かしこまりました」
コウちゃんはヤレヤレという顔をすると、私から離れて、たい焼き屋に向かった。
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