22.親友、お前もか!

「歩実・・・、酷い・・・、お尻、痛かった・・・」


休み時間に二人きりになった時、私は歩実に恨みがましく訴えた。


「だって、唯ちゃん、鈍いんだもの。でも、ちょっと力入り過ぎちゃった。ごめんなさい」


「鈍いって?」


首を傾げる私を、歩実は呆れたように見つめた。


「あの女が傍にいたのよ。聞かれたらダメでしょ! 下手したら一緒に青桜学園に行きかねないわよ?!」


「!!」


「それに、さっきだって何なの? 何がダブルデートよ! 本田君に接触する気満々じゃない!」


「ってか、聞いて、歩実! 昨日、恵梨香、青桜学園で待ち伏せしてたってコウちゃん言ってた!」


「うそ・・・」


歩実は驚愕したように目を丸めた。だが、すぐその目がスーッと細くなった。


「最悪・・・。ああ、だから、今日、早速唯ちゃんに接触してきたのね・・・、昨日会えなかったから」


歩実は顎に手を当てて独り言のように呟くと、改めてキッと私を見据えた。


「いい? 唯ちゃん。今日はホームルーム終わったらすぐ学校出るのよ! あの子に気が付かれないようにね!」


「え?」


「ふふっ、きっとあの子、本田君がこっちに来ると思って待ちぼうけすることになるわよ!」


ニヤリと笑う歩実。

ああ、歩実の微笑みが黒い・・・。


「あの、歩実・・・、ちょっと悪い人になってますヨ・・・?」


私は思わず歩実の頬をツンツンと突いた。


「唯ちゃんのせいよ。私がこれ以上悪女にならないように頑張ってね、唯ちゃん!」


歩実の黒い微笑みが、ぱあっと天使のような微笑みに変わった。


あれ・・・?

なんか、こっちからも堀が埋められている気がするのは気のせいか・・・?





帰りのホームルームが終わった途端、歩実から追い出されるように教室から出ると、一目散に下駄箱に走った。


キョロキョロと辺りを見回し、恵梨香の姿がどこにも無いことを確認すると、これもまた校門まで一っ走り。

門を出たところで、ゼーゼーと片膝に手を付いて息を整えた。


「と、とりあえず、麻奈にメール・・・」


歩きスマホは行けないと思いつつも、逸る気持ちが押さえられず、麻奈にメールを入れる。

今日落ち合うことはもう確約済みだ。

訳あってコウちゃんの彼女のフリをしているが、二人きりになるのは気まずいから一緒に帰って欲しいと、既に昼休みにメールしている。

麻奈からも『OK』と可愛らしいスタンプで返って来ているので、一応一安心だ。


これから青桜学園に行くとメールを送ると、校門の方を振り返った。

どんどん生徒が出てくる。恵梨香に見つかってもまずい。

私は小走りでその場を離れた。





青桜学園の校門近くに着くと、早速、麻奈にメールした。


『着いたよ』


送信ボタンを押しながら、周りを見渡す。

もう近くにいるかな?


キョロキョロしながら、門の中を伺う。

この学院の生徒がどんどんこっちに向かって歩いてくる。

違う学校の生徒が門の前で待っているのが珍しいのか、すれ違う人にチロチロと見られ、急に恥ずかしくなった。


思わず俯いてしまった時、聞き慣れた声がした。


「いたいた! あの子よ、私の親友」


麻奈の声だ。

顔を上げると、麻奈と数人の女子がこちらに向かって歩いていた。

麻奈は私に手を振っている。

私も振り返した。


「あの子が本田君の彼女?」

「そうそう、しかも幼馴染なのよ、本田君と。私も小6からの付き合いだから幼馴染だけど」

「へえ、幼馴染同士って憧れる~~」


私は振っていた手がピタッと止まった。


何を言ってるんだ? 麻奈は。


「おまたせ~、唯花」


呆然としている私に麻奈はにっこりと笑う。


「じゃあね、麻奈。また明日~」

「ごめんね、彼女さん。騒いじゃって。バイバイ、麻奈ちゃん」


その横を一緒に歩いてきた女の子たちがにこやかに通り過ぎていく。

麻奈も手を振って見送った。


「・・・? どうしたの? 唯花?」


麻奈は私に振り向くと、呆けている顔を不思議そうに覗き込んだ。


「・・・どうしたのって・・・、麻奈、何言ってんの? 私のメール見たよね?」


「うん、見たわ。本田君の彼女のフリしてんでしょ?」


「そう! フリよフリ! なのに何で余計なことを第三者に言ってんの?」


「別にいいじゃない。フリをしてんなら徹底しなさいよ、本田君はモテるんだから。知ってんでしょ?」


「は?」


「隙を見せるなって言ってんの。訳あって彼女のフリするなんてさ、それはそれは相当重要ななんでしょうから」


「いやいやいや! ほんと、これには訳が!」


「だから重要ななんでしょ?」


「人の揚げ足取んないで~!」


私は両手をバタバタさせて麻奈を睨んだ。

麻奈はプッと吹き出すと、少し可笑しそうに顔を逸らした。


え? ちょっと、今笑った? 笑いましたよね?


「とにかく、彼女のフリをしに青桜学園ここに来ているんでしょ? 周りに彼女だって思われて何がいけないのよ? なーんの問題もないじゃない」


にっこりと笑う麻奈の顔。

あれ? この笑顔、誰かに似てません? あんた、もしかして歩実?


ちょっと、親友! お前もか!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る