21.誰に相談する?
私は学校に向かいながら一人頭を悩ませていた。
悩ませ過ぎて、足取りも鉛のように重い。
この状況を一体誰に相談しよう?
歩実?
いやいや、今の歩実に昨日の状況を話したら、火に油を注ぐことになりそうだ。
麻奈?
麻奈はコウちゃんと同じ学校だ。
どうせ今日青桜学園に行くのだから、先に落ち合って話を聞いてもらう?
そんな時間あるかな・・・? 作ればいいのか、無理にでも・・・。
「そうだ! 麻奈も一緒に帰ればいいんだ! そうすれば二人きりにならないで済むし!」
私はポンっと手を打った。
そうだ、そうだ! 麻奈に防波堤になってもらおう!
ワッハハ! 私って頭良い! よろしく、麻奈!
いい案を思い付いたおかげで、気持ちが軽くなった。同時に重かった足取りも軽くなる。
私はこれ以上考えるのを放棄して学校に向かった。
★
学校に着くと、下駄箱で歩実に会った。
「おはよう! 歩実」
「おはよう、唯ちゃん!」
歩実は意味ありげな微笑みを浮かべ、私の顔を覗き込んだ。
「ふふふ~、昨日は幼馴染くんと仲良く帰って行ったわね~!」
「そう、それ! もう、歩実、止めてよ! フリって言ったじゃない! 田中ちゃん達、信じちゃったんじゃない?」
「ふふっ、いいじゃない、別に。本当に付き合っちゃえばいいのよ!」
ダメだ。歩実にはもうこれ以上相談できる状態ではない。
昨日の夜の出来事など話したらそれこそ暴走しそうだ。
「ねえ、今日も幼馴染君は迎えに来るの?」
廊下を歩きながら歩実が聞いてくる。
「それがさ~、今日は私が青桜学園に迎えに来いだとさ」
私は納得がいかないように頬を膨らませながら答えた。
へぇ~と歩実が頷いた時、
「おはよう! 唯花ちゃん、清水さん!」
後ろから耳障りな声が聞こえた。
振り向くと、可愛く手を振りながら満面の笑みを浮かべた恵梨香が小走りで駆け寄ってきた。
「おはよう、恵梨香」
「・・・」
一応、お義理で挨拶する私の横で無言の歩実。
普通に考えて私が一番不愉快なはずだか、お怒りモードの歩実に気を使ってしまい、彼女を背中に隠した。
「ああ、えっと、恵梨香、日曜日はありがとうね。お陰様で楽しかったわ」
私は無表情で、適当に本音半分嘘半分を言った。
「楽しかったのは後半だけよ・・・」
私の後ろで歩実の低い囁き声が聞こえる。
うんうん、私もそうよ。
「え~、私は寂しかったぁ! 二人とも急にいなくなっちゃって~!」
恵梨香はそう言って私に近寄り、腕を絡ませてきた。
「ねえ! またみんなで出かけない?」
そして、にっこりと微笑んだ。
「はあ?」
私の心の声を歩実が発した。
それを聞いた恵梨香はチラリと歩実を見ると、
「清水さんは嫌? じゃあいいわ。唯花ちゃん、今度はダブルデートしましょうよ」
そう言って、私の顔を可愛らしく覗き込む。
「いやいやいや、そういうのいいわ、私。ごめんね、恵梨香」
私はそう答えると、恵梨香から腕を引き抜いた。
「え~、どうして?」
恵梨香は縋るようにもう一度私の腕を取る。
どうしてもこうしても、嫌なもんは嫌なのよ! あんたなんかと出かけたいわけないでしょうがっ! 林田君の顔だって見たくないっつーの!
とは言っても相手は女の子。
強引に手を振り払うのも躊躇し、さりげなく手を引っ込めようとしているところへ、またまた誰かからお声が掛かった。
「おはよう! 香川ちゃーん!」
「おはよう、香川ちゃん! あ、清水ちゃん、見えなかった。おはよう!」
「おはよう! 田中さん、山田さん!」
昨日のギャラリーの内、二人のクラスメイトが声を掛けてきた。
歩実はここぞとばかり大声で挨拶を返し、二人を迎えた。
朝から興奮気味の二人がドドドっと私に押し寄せてきたので、恵梨香は驚いたように私から腕を放し離れた。
「ちょっと! 香川ちゃん! マジで格好良かったんだけど、彼氏君!」
「本読んで待ってる恰好、様になってたよ!」
「カレ友、紹介して~~!」
彼女たちは一気に私に襲い掛かる。
「ねえ、今日も迎えに来るの? 彼氏君」
一人にそう尋ねられて、
「えっと、今日はね・・・、いぃ~っ!」
答えようとした時、お尻に強烈な痛みを感じ、小さく悲鳴を上げた。
驚いて振り向くと、誰かが私のデカいお尻をつねっている。
その手の主を探すと、にっこりと笑っている歩実の顔があった。
「今日も迎えに来るんだって! 優しいのね~、唯ちゃんの彼氏って!」
「え? 違っ・・・、痛っ・・・!」
「ね? 唯ちゃん? そうでしょう?」
「う、うんうん!」
よく分からないが、歩実は肯定の返事しか受け付けないようだ。
疑問を持ちながらも必死に頷くと、やっとお尻から手が離れた。
何なの? 一体?!
「そうなんだ! うらやま~」
「幸せ分けてもらおう! イケメン拝顔!」
友人二人はキャッキャと盛り上がる。
私は自分の玉のお尻をサスサスと摩りながら、チラッと恵梨香の方を見た。
だが、彼女の姿はもう無かった。
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