15.デジャブ
翌朝、教室に入ると歩実が興奮気味に駆け寄ってきた。
「唯ちゃん! おはよう!」
「おっはよーっ! 歩実~! 昨日はありがとう!」
私は歩実に抱き付いた。
「どういたしまして!」
歩実はポンポンと私の背中を優しく叩いた。
「斉藤君にもくれぐれもお礼を言っておいてね! 本当に彼は天使だ!」
そう言って歩実から離れると、歩実は私の両腕をガッチリと掴み、
「そんなことより、唯ちゃん! あの後、幼馴染君とはどうなったの?!」
興奮気味に私の顔を覗いた。
「あ、あの後って・・・?」
歩実の勢いに思わずのけ反った。
「もう! ちょっと、唯ちゃん! 超いい雰囲気だったんだけど! ホントにフリ? 実は付き合ってるんじゃないの?」
「な、何言ってんのよ! 違うから!」
私は思いっきりブンブンと首を横に振った。
「ほんとにぃ~~? カップルリングまでしてたくせに~」
生ぬるい歩実の視線が痛い。
「ホント! ホント! 指輪はアイテム! 嘘をカバーするための!」
今度は思いっきりブンブンと首を縦に振った。
「ふ~ん。本当に付き合っていないんだったら、何か勿体ないわ。あんなにお似合いなのに。付き合っちゃえばいいのに!」
「な、何言ってんの! 歩実はアイツの本性を知らないからそんなこと言えるのよ! 幼馴染ってだけでお腹いっぱいだから! それ以上になったら吐くわっ!」
「あららら~。ムキになっちゃって、怪し~~」
「もう! 歩実ったら!」
彼女の冷やかしに耐えきれず、つい頬を膨らました。
歩実はごめんごめんと笑いながら謝ると、私の腕に手を絡ませて、顔を近づけた。そして、
「でも真面目な話、あの女、ちょっとヤバくない? 想像していたとは言っても、昨日はビックリしたわ」
そう小声で囁いた。
「今までもドン引きって何度も経験しているけど、昨日は過去最高に引いたわ」
「ごめんね、歩実。変なことに付き合わせて・・・」
「ううん。でも正直、ターゲットが斉藤君だったら思うとゾッとして仕方なかったの。彼だったら確実に落ちてるもの・・・。人が良過ぎるから・・・」
「そ、それは無いんじゃない? 斉藤君、歩実の事、大好きじゃん」
「言い切れる?」
フォローする私を、歩実はキッと見つめた。
言葉に詰まる。言い返せない。斉藤君を信じてはいるが、略奪女の手腕はそれを遥かに上回りそうだ。
「私、あの子は幼馴染君を諦めない気がするから、気を引き締めてね、唯ちゃん」
「え・・・?」
「何呆けてるのよ! 唯ちゃんも言ってたでしょ? あの子が本田君を放っておくわけないって。林田君はすぐ捨てられるって」
「・・・うん」
「獲られていいの? 幼馴染君のこと」
私はまた言葉に詰まった。
「前にも言ったけど、幼馴染君を獲られることは『唯ちゃんの彼氏』を獲られることなんだからね! ダメよ、これ以上は! あの女を調子に乗らせないで!」
「う、うん・・・」
「本田君だっていい迷惑よ、きっと!」
「うん・・・」
「今度は唯ちゃんが本田君を守ってあげなきゃね! 彼女のフリでもして」
「・・・」
なんだろう、このデジャブ感・・・。
コウちゃんと歩実って似てる? 気が合う? あんたら、もしかして実は兄妹?
ちょっと頭が混乱しかかってきたところに鐘が鳴った。
同時に担任教諭が教室に入ってきた。
私たちは会話を切り上げ、それぞれ自分の席に着いた。
★
その日の下校時刻。
帰ろうと準備をしている時、携帯が震えた。
覗いてみると、
『迎えに行く。校門で待ってて』
コウちゃんからのメッセージだった。
「何で迎えに来るの!?」
私は思わず声を上げてしまった。
「どした? 香川ちゃん?」
前の席の友達が驚いたように振り向いた。
「え? あ、な、何でもないの! あはは!」
笑って誤魔化しているところに歩実が来た。
「迎えに来るって、もしかして彼氏君?」
ニンマリと笑いながら、可愛らしく首を傾げる。
「えー? いいなあ、香川ちゃん!」
この友人は私が林田君と付き合っていたことを知らない。
彼氏がいることを恵梨香に知られたくなくて、本当に仲の良い子にしか話していなかったからだ。
今になって、隠していて良かったと思う。
付き合ってあっという間にフラれたなんて、あまりにも哀れな女過ぎる。
「唯ちゃんの彼氏って格好良いのよ! しかも青桜学園!」
「ちょ、ちょっと、歩実!」
慌てて歩実を制するも、友人は目を輝かす。
「うそー! ちょっと、香川ちゃん、彼氏君の友達紹介して~!」
友人はじゃれるように私に抱き付いた。
「違う学校なのにわざわざ迎えに来てくれるって、優しいのね。唯ちゃんの彼氏君」
ちょっと、歩実、どうした? なぜ、彼氏彼氏連呼する?
にっこりと笑う彼女の顔から考えが読み取れない。
「でも、近いもんね、青桜学園って。とは言え、香川ちゃん、うらやま~!」
「あはは・・・」
友人は興奮冷めやまず・・・。
私は頭を掻きながら笑って誤魔化すしかなかった。
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