14.彼氏彼女

「いや~、参ったよ、あの女には・・・」


二人きりになって、コウちゃんは長く溜息を付いた。


「マジで疲れたよ。やたらくっついて来るし、元カレ君には睨まれるし・・・」


「す、すいません・・・」


「すいませんじゃねーよ、まったく。これをワサビで交換しようとしてたんだからな、お前な。マジで割が合わねーぞ?」


「う・・・、ごめん・・・」


「まあ、これから楽しめばいいか」


言い返す言葉が見つからない私の頭を、コウちゃんはちょっと乱暴に撫でると、


「じゃあ、絶叫系乗りまくろうぜ!」


さっきから繋いでる手を引っ張って歩き出した。

しかも、いつのまにか指が絡まり、恋人繋ぎに変わっている。


「も、もう二人きりだし、手を繋がなくても大丈夫じゃない?」


「何言ってんだよ。どこで見られてるか分からないぞ?」


「そう・・・かな?」


「そう」


コウちゃんは断言すると、


「それに、やるなら完璧にやるからって言ったよな」


ニッと笑って手を持ち上げ、また私の指輪にキスをした。


「!」


「それにしても、あの男は無いわ・・・。お前、見る目無さ過ぎ・・・」


動揺している私に向かって呆れたような顔をした。


「わ、わ、悪かったわね! 見る目無くって!」


私はプイっと顔を背けた。


「あんな男の為に身を引いたのかと思うと腹立たしい・・・。ったく・・・」


コウちゃんは何かブツブツ言っている。


「ま、不戦敗決め込んだ俺が悪いんだけどな・・・」


「? 何? 聞こえない」


私は背けた顔を元に戻して、コウちゃんを覗き込んだ。

すると、今度はコウちゃんがハッとしたような顔をしてプイっと顔を背けた。


「何でもない!」


何故か怒るように言うと、


「次、行くぞ!」


そう言って、ズンズン歩き出した。





結局、その後は二つのカップルとは合流せずに解散となった。


「コウちゃん。今日はお疲れ様。大変助かりました!」


送ってくれた家の前で深々と頭を下げる。


「ああ」


「後半はすごく楽しかったぁ! 絶叫マシーン全制覇付き合ってくれてありがとね!」


「ホントに、よく絶叫してたな・・・」


「うん! めっちゃストレス発散になったわ!」


ふふふと笑う私に、コウちゃんは満足そうに笑うと、


「良かったな。じゃあ、またな」


コウちゃんは手を振って家に向かって歩き出した。


「あ! そうだ、コウちゃん、待って! 指輪、返すよ!」


私は帰ろうとするコウちゃんを慌てて引き留め、指輪を外そうとした。


「何言ってんの? お前」


コウちゃんは急に低い声になった。

あれ? 何か怒ってらっしゃる?


「何で? だって、もうフリは終わったから・・・。ほら、何か悪いし・・・。これ結構高いんじゃない?」


「・・・へえ? もう終わったと思ってるのか?」


「え? 違うの・・・?」


「ああ、俺の予想ではね・・・」


「? どういうこと?」


コウちゃんははぁ~と長く溜息を付くと、呆れたように私を見た。


「だから話しただろ? 最初に。次のターゲットは誰になるかって」


「あ・・・」


私は両手で口元を押さえた。


「いいか? 俺はあの女と付き合うなんて御免だからな! 今回は俺がお前の彼氏のフリをしたわけだから、次はお前が俺の彼女のフリをしろ」


「は?」


「文句あるの?」


「・・・」


「・・・まさか文句あるのか?」


ジトっと見る目が怖い・・・。


「いいえ、無いです・・・」


「当たり前だ。ったく」


コウちゃんは呆れたように頷くと、


「ということで、当面、俺らは彼氏彼女だから。そのこと忘れんなよ。じゃあな」


そう言って、踵を返すと家に帰って行った。


私は、またもやボーゼンとしながら、彼の姿が見えなくなるまで立ち竦んでいた。

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