11.いざ、トリプルデートへ!

やってきた! 決戦の日曜日!


私はベッドから飛び起き、部屋のカーテンをシャーっと開けた。


「くーっ! なんて良い天気・・・!」


眩いほどの朝日が部屋の中へ差し込んでくる。


雹でも降るほどの荒れた天気になって、今日のイベントが中止になってくれればいいと願いを込めて逆さテルテル坊主を五つも作ったのに!

逆さに吊り下げられている白い物体が、五つもユラユラ揺れている様はまるで呪いの儀式ようだ。

ここまでしたのに、本日見事に快晴。


「はあ~、私の怨念より、恵梨香の快楽の執念の方が強いって事・・・?」


私はガックリと肩を落として、ノロノロと着替え始めた。





最寄り駅では先にコウちゃんが待っていた。


「ったく、何で駅で待ち合わせなんだよ? 家まで迎えに行くって言ったのに」


顔を合わせて早々、コウちゃんに怒られた。


「嫌だよ。コウちゃんと出かけるってママに言ってないもん。誤解されたら面倒臭い」


私は軽く溜息を付いた。

ママはコウちゃんがお気に入りだ。そんなコウちゃんと一緒に外出、ましてやデートなんて知ったら浮かれまくるに決まっている。

いくら偽物デートだと説明しても、自分の都合のいいように解釈されるのがオチだ。黙っていることに越したことはない。


「で、なんで指輪してないの?」


うっ・・・、早速気が付いた・・・。目ざとい奴だな・・・。


「ママに詮索されるのが嫌だったからよ。持ってきてるってば」


「ふーん、じゃあ、今つけて」


「別に直前でいいじゃん! 唯のアイテムでしょ? 保険なんでしょ? バレないための」


自分でも何でこんなに焦っているのか理解できないが、つい反抗してしまう。

プイっと顔を背けると、コウちゃんのため息が聞こえた。


「・・・分かったよ・・・」


そう言うと、ポケットからスマホを取り出した。

と、思ったらどこかに電話を掛けた。


「え・・・? 何して・・・?」


「あ、亨? 今どこ? あのさー、俺、やっぱり今日暇に・・・」


「わーかった! 分かりました!! 今つけます、すぐに! 持ってきてるんだから! ね! 見て見て! ほらつけた!」


私は指輪をはめた手を見せた。


「ほらほら! ね!」


コウちゃんはパチクリと目を見開いて、私の手を凝視している。


「えっと、コウちゃん・・・?」


私は恐る恐るコウちゃんに声を掛けた。

彼はハッと我に返ったような顔になると、フイっと顔を背けた。


「あー、亨、悪い。やっぱり今日無理だわ。じゃあな」


電話を切るコウちゃんに、私はホーっと胸を撫でおろした。


コウちゃんは携帯をポケットにしまうと、満足そうに私を見た。


「ふーん、大胆だな。でも、そっちの方が効果があるか。じゃあ俺もそうする」


「は?」


何を言っているのか分からなくて首を傾げていると、コウちゃんは自分の指輪を外し、反対の薬指に付け直した。

そう、左手の薬指。


「え゛・・・? 何してんの? コウちゃん・・・」


「何って、お前に合わせただけ」


「へ?」


私は恐る恐る自分の左手を見た。

何故か、薬指に指輪が・・・。


「あ~! さっき、慌て過ぎて間違えた! 何も左手じゃなくても!」


私は急いで指輪を外そうとしたが、コウちゃんが私の手を取る方が早かった。


「んじゃ、行くぞ」


抵抗も空しく、私はズルズルとコウちゃんに引きずられていった。





他のカップルとは現地集合だ。

遊園地の入り口の前では、既に二つのカップルが私たちを待っていた。


「唯ちゃん~~! こっち~~!」


歩実が先に私たちを見つけてくれた。大きな声で呼びながら手を振っている。

斉藤君も大きく両手を振ってくれている。うん、良い人だ。


その横では、これ見よがしに林田君と腕を組んでいる恵梨香の姿が見える。


私の方はというと、緊張と怒りと気まずさの入り混じった複雑な思いが腹の底から湧き上がってきて、情けないが、立ち止まってしまった。


「おい、いきなり弱腰になるな。行くぞ」


コウちゃんは私の耳元でそう囁くと、さっきから繋いでいる手に力を込めた。


「せっかくだ。俺らも楽しもうぜ」


見上げる幼馴染の顔はニッと笑っている。いつも通り強気な顔に私も元気になった。


「うん! そうよね! 折角の遊園地だもんね、タダ券に罪は無いし! 絶叫マシーン乗りまくってやる! 全制覇してやる!」


ギュッとコウちゃんの手を握り返すと、敵と味方の二つのカップルに向かって歩き出した。

遊園地の入り口に近づくにつれて、彼らの顔がよく見えてくる。表情も。


歩実と斉藤君はにっこりと笑っている。

すべての事情を知っている歩実は満足げな笑顔、いや、どこかドヤ顔だ。

それに比べて斉藤君の笑顔は曇りが無い。


そして、もう一組のカップル・・・。


見たくもないが目に入る。

不安から、つい、コウちゃんと繋いでいる手に力がこもる。


だが、二人を見た瞬間、いや、正確には一人―――恵梨香を見た瞬間、今日我慢して来た甲斐があったと思った。


恵梨香のとてつもなく驚愕した顔がそこにあったからだ。

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