4.やはり黒
数日後の下校時刻、運悪く、私は恵梨香とその彼氏に行き会ってしまった。
その彼氏―――つまり、元カレ。短かったけどな・・・。
その時、私は今同じクラスで仲良くしている友達の
もともと三人で歩いていたわけではない。
歩実と歩いていたところに、歩実の彼氏が駆け寄ってきたのだ。
まあ、私から歩実を奪取するつもりだったのだろう。
もちろん、私はすぐに身を引くつもりで、お愛想程度に雑談していただけだ。
「あ、唯花ちゃん!」
聞きたくもない女の声に、渋々振り返ると、林田君と仲良く腕を組んで近寄ってくる恵梨香がいた。
林田君は気まずそうに顔を逸らし、若干引きずられるようにして、恵梨香と一緒に私の前に立った。
「清水さんもお疲れ~」
事情を知っている歩実は無言まま目を細めて恵梨香を見つめるが、恵梨香は微笑みを崩さない。
何にも知らない歩実の彼氏だけが、自分の彼女の不機嫌な顔に首を傾げた。
私は早くどっかに行ってくれと思いながら、極力二人と目を合わさないように適当に言葉を交わした。
「ねえ、唯花ちゃん、やっぱり元気無いわよね? そう思わない清水さん?」
はあ~?という顔の歩実。ちょっと、もう少しで声出ちゃいますよ!
私は慌てて歩実を隠すように恵梨香の前に出ると、
「大丈夫よ! 全然元気だし!」
そう言って、チラリと林田君を見た。
この人と目を合わせるのは気まずいが、この女をさっさとどこかに連れて行って欲しい。
そんな思いで彼を見たのだが、どうやら私の視線は相当鋭かったようだ。
奴は慌てて顔を逸らした。
恵梨香はそんな私たちのやり取りに気が付いたのか、ちょっと顔が歪んだ。
その顔で確信した。
やっぱり黒!
この女、林田君が私の元カレと知っている!
だが、恵梨香はすぐに笑顔になると、さらに声を弾ませて、突拍子も無いことを言い出した。
「ねえ! 今度の日曜日、私たち遊園地に行くの! 一緒に行かない?」
「あ?」
思わず喉の奥から低い声が出てしまった。
慌てて、口元に手を当てコホンと咳をした。
「だって、唯花ちゃんに元気になって欲しいし! ね?」
恵梨香はもともと絡ませている林田君の腕をさらにギュっと掴むと、私に向かって可愛らしく首を傾げた。
「それにね、実は無料チケット貰っちゃってね! 何と3組! ね? だから清水さんたちもどう? ねえ、清水さんの彼氏君、どうかしら?」
「へえ! 偶然! 俺たちも昨日行きたいって話してたとこだよな? 歩実?」
知らないって恐ろしい。
情報を共有していない歩実の彼氏の斉藤君は喜んで返事をしてしまった。
振り向くと、青ざめた歩実の顔。
それに引き換え、超ラッキーと言わんばかりの嬉々とした斉藤君の顔。
「じゃあ、決まりね! 唯花ちゃん、皆で楽しもう!」
恵梨香が嬉しそうにパンっと両手を叩く。
隣の林田君は、気まずそうにしたまま何も言わない。
止めろってのよ! この暴走女を! あんたの彼女だろうが!
「へえ! じゃあ、トリプルデート? 香川さんって彼氏いたんだ?」
斉藤君の悪気の無い一言に、歩実は完全に凍り付いてしまった。
チラリと林田君を見ると、奴も凍り付いている。
「あら、いたっけ? 唯花ちゃん?」
クスっと笑う恵梨香の顔に、私は目を見張った。
だが、一瞬にして腹黒い笑みが消えて、いつもの可愛らしい笑顔になる。
「別に5人でもきっと楽しいわ。気にすることないわよ! 唯花ちゃん」
そのわざとらしい笑顔とそのセリフに、ギリギリ保っていた私の理性はプチンと切れてしまった。
ああ、何でもう少し我慢できなかったのか! 私のバカ!
「ううん、折角だもん! 彼氏を誘ってみるね!」
そんなアホなことを口走ってしまったのだ。
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