第2話

 それは、昼頃に差し掛かるときであった。火の鳥となって学園にまっすぐ飛び立ち門が見えたところで着地点に人が居ない事を確認し垂直に降り立った。


「うわ!なんだ!?」


「あ、ごめんなさい。驚かせちゃいましたね」


 勢いよく日の塊が落ちてきたものだから守衛さんを驚かせてしまった。反省反省、とりあえず要件を伝えなくては。


「学園長レイヴン・ノルトー様に用があって参りました!赤の魔塔主の緋毬です!」


「学園長は忙しい、用があるなら正式なアポをって・・・赤の魔塔主!?失礼しました!!申し訳ありませんが証明となるものはお持ちでしょうか?」


「えーっとぉ、この二つで証明になりますか?」


 そうして掲げたものは、ローブに付いた王家直属を示す紋章バッチと赤い石が埋め込まれた黄金の鍵だった。


「はい!問題ありません!!おい、待合室までご案内しろ。すいません、直ちに確認を取って参りますので少々お待ちください」


「わかりました、今日中に合えればいいのでそこまで焦らないでいいですよ」


 もう一人の守衛にも挨拶を交わし待合室で待つこと15分程経過したところで扉が開いた。不機嫌マシマシな金髪少年がこちらを見下ろす。


「ふん、騒がしいと思って来てみればなんだ娘、来月に差し迫った飛び入りの入学希望者か?全く迷惑なやつめ。この時期身の程を弁えないバカが多くて困るんだよ」


 おうおう、突然の来訪に驚かせてしまったのは申し訳ないと思うけどそこまで言うほどだろうか。大体なんだ君は、見た感じ同い年に見える少年だが随分と攻撃的だ。

 すると、何も言い返さない私に苛立ちを覚えたのかズンズンと足を進めこちらの睨みつけてくる。

 私は、気にせず紅茶を啜る。うん、おいしい。


「おい、聞いてるのか!!」


「うるさいなぁ、茶が不味くなるでしょう」


「んな!?」


 ・・・?急に黙り込んでどうしたのだろうか。と思ったら肩を震わせながらまたも睨んできた。その瞳には怒りの色がよく見える。


「くくっ、そうかそうか。そんなに見程が知りたいか!?いいだろう!!」


 そう言って少年白地の手袋を投げつけてきた。


「ん?これは?」


「決闘だ!作法も知らんガキに身の程を教えてやる!泣いて謝ってももう遅いからな!!」


 ほーう面白い、決闘と来たか。確かにそういう文化があると聞いたことがあるけどそうか。これが申し込みの作法なのか。


「いいよ、力量も見定められない子供に現実を教えてあげる。私の授業料はすこーし高いからね?」


「はぁ!?いい気になるなよクソガキ!校舎の裏手に訓練場がある!ついてこい!」


 そう言うなり足早に部屋を出ていき入れ替わるように先ほどの守衛さんが顔を出す。


「え!?ライル様!?なぜこんなところに?」


 ライルというのかあのイライラ金髪少年は、戸惑う守衛さんにライルは睨みながらキャンキャン吠える


「このガキに身の程を教えるところだ!邪魔するな!」


「えぇ!?あの・・・それはどういう」


 あまりの事に混乱し助けるようにこちらを見つめる守衛さん。本当すまんね。予定がズレちゃうのは申し訳ないけど。直ぐに終わらせますんで。


「すいません。学園長にもこの事伝えてください。裏手にある訓練場で試合をしたいそうなので、本当忙しくしてすいません」


「いえ、何か行き違いがあったのでしょう。彼にもいい勉強になるでしょうしお手柔らかにお願いします」


「おい!何をしてる!さっさと来い!!」


 全く・・・周りの迷惑も考えないのか、通る人皆驚いてるじゃないか。


「キャンキャン吠えるな喧しい。周りの視線を考えて行動しろ?」


「なっ!~~~~!ふんっ!!」


 暫く歩き会話もないまま校舎裏手にある訓練場に到着した。思ったより広々としており、多少暴れても問題ないほどに空間が開けている。壁の周囲は観戦できる仕様なのか座席もあり、生徒らしき人が多く居た。恐らく先ほどのやり取りで野次馬が増えたのだろう。


「それで、決闘のルールは?」


「ルールは実戦式で行う、あれだけ大口叩いたんだ文句はあるまいな?」


「実戦式?」


 実戦式と聞き、観客席の方もざわついているのが気になる。なんだか物騒な名称だし、多分危険も伴うルールだろう。


「本当に何も知らないんだな。戦闘不能と判断されるまで戦いが終わらないってことだよ」


「ふーん、誰が判断するの?」


 こういったルールに各自の判断力に任せるのはあり得ない。つまりは外部の人間に頼るわけだが、いったい誰がするのだろうか?先ほど守衛さんかな?

 そんな事を考えている一人の男が、やってきた。


「それは、私が審判しようじゃないか」


「ちちう!!学園長!!!」


 守衛さんから事情を聞いたのかレイヴン学園長が審判役に名乗り出てきてくれた。


「久しいな緋毬、元気そうで何より」


「はい、ご無沙汰しております。学園長、すぐ終わらせますので少々お待ちください」


「なっ!」


「クカカ!!急ぐ必要もないぞ。我が愚息の事だ、良い経験になるだろう。存分に揉んでやってくれ」


 へー、ライルはレイヴンの子供なんだ。

 へー、確かに目つきの鋭さは似てるかも。

 ふーん、そういう事なら手加減はもちろんだけど遠慮はやめよう。

 今後も長い付き合いになりそうだし。


「じゃあ、試合の合図の前に名乗りが必要だよね。こういうのって、作法とか知らないから先に手本とか見せてくれない?」


「舐めたマネしやがって!!来月より入学する主席で!代表の!ライル・ノルトー!」


「・・・来月より入学希望、緋毬」


「・・ほう?では、決闘ルール実戦式。ライル・ノルトーと緋毬の試合・・・はじめ!!」


学園長が驚いた顔してこちらを見つめる。少し嬉しそうに見えるのは嘘じゃないといいな。

んでもって試合の合図が鳴ったにも関わらず怪訝な表情をしたまま攻める気配がないのは、どういうことだろうか。


「どうしたの?かかってこないの?」


「・・・お前、家名は?」


「ん?ないけど」


「くっくっく、そうか平民の分際で俺に楯突いたのか・・・。本当にいい度胸だなぁ!!『ファイアボール』」


ライルの激情に任せた火炎弾がまっすぐこちらに飛んでくるのをじっと見つめる。密度・大きさ・速度、どれをとっても合格点。流石はレイヴンの息子だけある。しかし・・・。


空間接続エリアコネクト:マジックジャマー」


火炎弾は緋毬に届く前に瞬く間に霧散し、残るのは熱風のみ。観客席も予想外の出来事にざわつき始める。この中で今のを理解できたのは大人組だけだろう。


「な!?今何をした!!」


「どうしたの?まだ始まったばかりでしょ?ちゃんと遊んであげるからさ、遠慮なんていらないよ」


大人げないと思われるだろうけれども、私もまだ14歳。大人げなくて結構だ。

そう思いながら緋毬は不敵に笑うのだった。

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紅蓮の魔術師の学園生活 SNOW @Snow0206

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