三十四題目「山 舌 筆」
「映画のクライマックス、面白かったね」
スキップでもしそうなほど軽快に歩く少女が、振り返る。薄い黄色のスカートが、パッと広がった。
「僕は、まあまあかな」
「なんでよ! 最後に告白するシーン、めっちゃよかったじゃん」
「前見ないと、危ないよ」
後ろ歩きをする少女に、青年は呆れたように注意する。
薄暗い映画館を出ると、降り注ぐ太陽の光に目を細めつつ、入り口近くに置いた車の運転席に乗る。
日陰の場所に置いていたため、車内には熱がこもっておらず、青年はすぐにエンジンをつける。
眉を顰めた少女が、助手席に乗り込む。その目が、早く続きを言えと伝えてくる。
ゆっくりとアクセルを踏みながら、青年が口を開く。
「今までノートでのやりとりがあったから、ラストの告白は主人公が手紙とかを書いて伝える方がいいと思うんだ。その方が、ラストのシーンにより深みが出るから」
ハンドルに意識を向けつつ、青年はさらに続ける。
「まあ、画的に地味だったりするかもだけど」
「……そんなこと考えて見ないよ。普通」
少女の表情が固まっているのを、視界の端で確認する。
ドン引きされても、仕方がない。小説家の職業病のようなものだ。
少女が憂いの表情で、窓の外を見る。
「私たちって、あんまり合わないよね」
赤信号になり、ブレーキを踏む。
「そ、そうかな?」
「食べ物の好き嫌いとか、考え方とか、全然違うよね」
言葉の端に宿る不穏な気配に、青年は嫌な予感を感じる。
もしかして、別れ話なのだろうか。
お互い、なんとなく黙ってしまい、気まずい雰囲気が車内に流れる。
このままでは、ダメなような気がした。
信号が青になったのを確認してから、青年はハンドルを握る手に自然と力が入る。
「僕たちは、その、合わないのかもしれないけど」
横からじっと見られている気がして、顔が熱くなる。
「僕とは正反対の君だから、好きになったんだと思う」
緊張で、喉が渇く。
「だから、これからも末長く付き合えたら、嬉しいです」
クスリと、少女が小さく笑う。
「告白は、手紙とかの方がいいんじゃないの? 小説家さん」
「……現実なんて、そんなものだよ」
照れ隠しの皮肉に、青年は悔しげに吐き捨てた。
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