二十九題目「つむじ風 嘘 蒲鉾(かまぼこ)」
––空から、かまぼこが落ちてきた。
見間違いかもしれないと思って、地面に転がったそれを拾ってみる。
ピンクと白で彩られた、誰もがイメージするあのかまぼこだった。周囲を見てみるが、誰の姿も見えない。
なぜ、かまぼこが落ちてきたのだろうか。
そういえば、近くでつむじ風が発生したというニュースを見た気がする。もしかしたら、風で運ばれて来たのかもしれない。
かまぼこを持ったまま、俺は家へと帰る。
「ただいま」
返事がないままリビングに入ると、ソファーに寝転んだ妹がアイスの棒を咥えていた。
「外で拾ったんだけどさ」
俺はかまぼこを見せる。
興味なさそうに、妹が携帯から視線を移す。
「かまぼこが空から落ちてきたんだよ」
「……ふーん」
そう言うと、妹はすぐに携帯電話に顔を戻す。
「マジなんだって」
「どうせ、嘘なんでしょ」
「違うって。今日、ニュースでやってただろ。つむじ風のやつ」
「風でかまぼこが飛んでくるわけないでしょ。もういい加減にしてよね」
全く信用しない妹の態度に、俺は徐々に怒りが溜まってくる。
「嘘じゃないって、何度も言ってるだろ! このアホ女」
妹が俺に顔を向ける。その表情は怒りで染まっていた。
「当たり前でしょ。この間も、あたしのアイス食べたくせに、嘘ついてたじゃん」
「お前のアイスって知らなかったんだよ」
「ちゃんと、ミカって名前書いてたでしょ!」
それを言われると、何も言い返せなくなる。
「あたしのゲーム壊した時も、財布からお金盗んだ時も! いつも嘘つくじゃん」
「だ、だけど、今回は本当なんだって!」
「もう聞き飽きたから」
妹がソファーから立ち上がり、自分の部屋に戻ろうとする。
どうにか本当だと証明したいが、信用してもらえる材料がない。
なんて声をかけるか迷う俺の耳に、リビングの窓に何かがぶつかる音が聞こえた。
振り返ると、窓の外にかまぼこが落ちている。
ぽとり、ぽとりと、かまぼこが窓に当たっては落ちていく。次の瞬間には、豪雨のようにかまぼこが降ってくる。
「ほんと、だったんだ」
呆然としたような妹の声を聞きながら、俺は妹に信用されたことに安堵していた。
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