二十八題目「天の川 泣く 小間物屋」

 大きな天窓の向こうに、星が散らばった夜空があった。

 暗い夜空を切り裂くように、星々が道を作っている。友達に聞いてみると、天の川と言うらしい。

 ベッドしかない部屋で、少年はただじっと見上げていた。そうしているだけで、嫌なことを忘れることができた。

「ちょっと! 出しっぱなしにしないでって言ってるでしょ!」

「仕事で疲れてるんだから、それぐらい多めに見ろよ!」

「はあ! こっちだって家事や育児をやってるのよ! 何もしないあなたと一緒にしないで!」

「俺だって、空を休みの日に連れて行ったりしてるだろうが!」

 一階のリビングで、両親の怒号が飛び交っている。少年にとっては、もう聞き慣れていた。


 いつからだろう。両親がいつも怒鳴り合うようになってしまったのは。

 いつからだろう。夜になると、少年が部屋から出なくなったのは。

 いつからだろう。少年の涙が枯れてしまったのは。


 いつの間にか、少年は両親の笑顔が思い出せなくなっていた。そのことが悲しく、とても寂しかった。


 もう一度、両親と笑い会える日は来るのだろうか。


 星に願いをかけるように、少年は再び天窓を見上げる。

 少年を優しく照らすように、星たちは輝いていた。

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