二十四題目「無人島 隠れる 鐘」

 俺以外には誰もいない島で、鐘の音が流れている。

 夕日を映す海を眺めながら、浜辺に流れ着いた貝殻を放り投げる。波紋が広がり、太陽の形が歪む。

 この島に来てから、もう何日が経ったのだろうか。

 大学の夏休み、友達と海で遊んでいたのだが、突然の波に飲まれてしまった後に気がついたらこの島に流れ着いていたのだ。

 周囲には他の島は見えず、ここがどこなのか全く見当がつかない。

 俺がいないことには友達が気づいているはずなので、救助が来るまで待つしかない。一応、波が来ない砂場に『SOS』の文字を大きく描いている。

 いつまで待ち続ければいいのか不安になるが、それよりも俺には一つ気になることがあった。


 ゴーン、ゴーン、ゴーン。


 一定の間隔で聞こえる、鐘の音。

 無人島であるはずこの場所で夕方ごろになると、ずっと聞こえてくるのだ。

 島を探索した時には鐘どころか、人の影さえ見当たらなかったのだ。いくら鈍感な俺でも、流石に何かがおかしいことには気づく。


 ゴーン、ゴーン、ゴーン。


 鐘の音が鳴り響く中、夕陽が沈んでいく。いつもなら、夕陽が沈むと同時に鐘の音が消えるはずなのだが。


 ゴーン、ゴーン、ゴーン。


 まだ、鐘の音は鳴り続けている。

「あれ、なんで?」


 ゴーン、ゴーン、ゴーン。


 次第に鐘の音が大きくなり、胸の中に不安が募って焦り始める。

 暗闇の中、急いで木々の影に隠れようとすると、強烈な眠気が襲う。

 立っているのも辛く、体中の力が抜けて砂に倒れ込む。


 ゴーン、ゴーン、ゴーン。


 薄れいく意識の中、鐘の音が脳裏にこびりついていた。




 目を開けると、滲んだ景色が映る。

 そこは白い部屋で、視界の端に機器があるのが見えた。そして、白衣の女性も。

「ーい、起きーー」

 倒れる俺を心配そうに見つめていた白衣の女性が、何かを言っているようだが、俺には全く聞こえない。

 白衣の女性が視界から消えた後、ここがどこか気づく。

「病院、か」

 その呟きを最後に、再び俺の意識は暗く沈んだ。

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