二十三題目「草原 赤 糸」

 リビングに置かれたテレビに映像が流れている。どうやら、洗剤のCMのようだ。

 広大な草原に立つ一人の女性。カゴに入った洗濯物を持ちながら、その場を周り続けている。

 白いスカートを翻しながら笑うその姿は、不思議と少年の目にも留まった。

 cmが終わる直前、女性の細い小指には赤い糸がチラリと映る。

「……俺と同じやつやん」

 テレビを観ていた少年は、手に持っていたポテチを落とす。

 女性の指にあったのは運命の赤い糸で、少年には幼い頃から見えているものだった。

 自分以外には繋がっている人間は見たことがないので、誰かに話したことはない。幻覚じゃないかと思う時が何度もあったほどだ。

 いつのまにか、テレビでは刑事ドラマが流れている。

 将来の妻かもしれない人を見つけることができて、嬉しい気持ちがある。それが美人な女優ならば、不満などあるはずもない。

 だが、ただの大学生が女優と出会える可能性なんて、あるのだろうか?

「ま、別にいっか」

 少年がリモコンに手を伸ばそうとして、ピンポーンと音が聞こえた。

 少年の家にはモニターはないので、玄関に出なければ顔がわからないのだが、少年の友人にはインターホンを押す人はいない。大抵、携帯電話に連絡が来る。

 母の知り合いだろうと思い、少年は居留守を使う。だが、


 ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン


 絶え間なく押されるインターホンに、少年は渋々玄関に出る。

「最近、引っ越してきた椿ですが」

「……赤い糸ってすげえ」

 少年の放った言葉の意味がわからず、目の前の女性が首をかしげる。

 その顔は、さっきテレビに映っていた女優と同じ顔だった。

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