二十二題目「ひなどり 主人 いす」

「そこの雑誌を持ってこいッピ」

 大人の身長を優に超える巨大なひよこが、床に落ちた雑誌を羽で差す。

 床に座って携帯を触る少年が、嫌な顔を隠しもせずに振り返る。

「自分で取ってこいよ、デブ」

「誰がデブッピ。僕が動けないのは、体が大きいからだッピ!」

 巨体を揺らすひよこを見ながら、少年は渋々雑誌を取りに行く。

 この憎たらしいひよこに言われなくても分かっていたが、横柄な態度に文句の一つも言いたくなったのだ。

 雑誌を拾うと、自然とため息が出る。あの時の卵が、こんなに大きくなるとは思わなかった。

 一年前に拾った卵から産まれたのが、このひよことの出会いだった。

 最初は手の平に乗る大きさだったのだが、餌を与え続けていると、少年の身長を超える大きさになっていたのだ。しかも、いつの間にか人の言葉も覚えている。

 このままでは飼えなくなると思って両親に相談すると、離れにあった物置部屋で過ごすことになった。

 少年がひよこに雑誌を手渡す。

 お礼も言わず、雑誌に集中するひよこに怒りが湧いてくる。

 小さい頃は可愛げがあったのだが、体の大きさに比例して大きくなる態度に、少年はムカついていた。

 懲らしめてやりたいと思うが、体格差がありすぎて普通の方法では無理だ。

「今日は金曜日ッピ?」

「……それがどうした?」

「夜にすみっこぐらしの映画がやるから、録画しとけッピ」

 雑誌をめくって、ひよこが少年に命令する。

 少年は渋々録画しに行こうとしたが、すぐに足を止める。

「土下座したら考えてやるよ」

「ナニ馬鹿なこと言ってるッピ。さっさとやれッピ」

「だったら土下座しろ」

「ぶっとばすっぴよ!」

 ひよこに睨まれても、少年はひるみもしない。

 少年を叩こうと羽を伸ばすが、ひよこの重い体は動かず、全く届かない。

 じたばたするひよこを見て、少年が笑みを浮かべる。

「どうした? ぶっ飛ばさないのか?」

 ひよこの無様な姿に、少年は笑いが止まらなくなる。

「そ、そもそも、こんな体で土下座できるわけがないッピよ」

「そんなの、俺には関係ない」

 ひよこの顔がどんどん青ざめていく。

「それじゃあ、俺は行くわ」

「た、頼むっぴ。録画してほしいッピよ」

 ひよこの情けない声を背に受けながら、少年は物置部屋を出る。

 本当は録画する義理はないのだが、少年の目的は既に達している。

 これで少しは態度を改めるだろと思い、少年は家に戻った。

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