二十題目「星 王女 屑」

 大学の帰り道で、青年は奇妙な光景を見かけた。

「どなたか、これを見たことはありませんか?」

 紫のドレスを着た金髪の少女が、道行く人に声をかけ続けている。

 コスプレをしている外交人のように見えたが、少女の佇まいからは気品さが漂っていて、本物のお姫様のようにも見える。

 美しい少女に話しかられたら喜びそうなものだが、厄介ごとに巻き込まれたくないからか、全員が通り過ぎていた。

 かくいう青年も、話しかけられないように少女を避けて通ろうとする。

 少女とすれ違う際、肩越しに手元が見えた。

 肘まである白いレースの手袋の上には、丸い石があった。独特な光沢を放っていて、道端に落ちているようなものではないようだ。

 たしか、どこかで見たような……

「あ」

 勢いよく少女が振り返る。

「何か心当たりがありますの⁉︎」

 少女の勢いに呑まれて、青年は足を止める。

「多分、だけど」

「どこで見かけましたの!」

 ぶつかりそうなほど、少女の顔が近付く。

「ち、近い、近いから」

「すみません。どうしても興奮してしまって」

 少女と距離を取った青年が、背負ったリュックを漁る。

 しばらくして、少女が持つのと同じ丸い石を取り出す。

「これ、だよね?」

「はい、間違いありませんわ!」

 青年の持つ丸い石を、少女が素早く取り上げる。

 少女の青い瞳が宝石のように輝く。まるで、宝物を見つけた子供のようだ。

「ありがとうございます」

 ドレスの裾をあげて、少女が華麗にお辞儀をする。

「いえ、偶然拾っただけなので」

「お礼に、何か願い事はありませんの?」

 急に願い事と言われても、特には何も思いつかない。

「別にないけど」

「そんなことおっしゃらず、どんな願い事も叶えてさしあげますから」

「そう言われてもな〜」

 不意に、二つの丸い石が目に入る。

「そういえば、その石ってなんなの?」

「これは星の欠片ですの」

 聞いたことはないが、そういう名前の鉱石か何かだろうか。

「そんなことより、早く願いを言ってくださいまし」

 少女に詰め寄られて、青年は苦笑する。

 願い事を言わなければ、一生付きまとわれそうだ。ここは適当でも、何か答えないと。

「じゃあ、一億円がほしいかな」

「わかりましたわ。一億円ですわね」

 少女が星の欠片の一つを手渡す。

「これを売れば、一億円の価値がありますのよ」

 それではと言い残し、少女はすぐに立ち去っていく。

「……ま、いっか」

 騙されているような気がしながらも、青年は丸い石を眺めた。

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