十一題目「稲 心臓 シーソー」

 シーソーの両端に、稲と心臓が乗っている。

「……なんだ、これ?」

 目前の光景を見て、少年は混乱する。

 自分の部屋で寝ていたはずなのに、なぜこんな場所で目を覚ましたのだろう。

 ズボンについた草を払いながら体を起こして、周囲を見渡す。

 シーソー以外の遊具はなく、芝生が生い茂っている。どうやら、ここは小さな公園のようだ。 

 公園の外は霧に覆われていて、全く外が見えない。

 金属のポールが立つ入り口に近づいてみるが、透明な壁があるようで、押しても出れそうにない。

「夢だな、これは」

 たしか、夢だと自覚する明晰夢というものがあると聞いたことがある。これがそうなのだろう。

 もう一度、少年が稲と心臓があるシーソーに視線をやる。

 右側には、泥もついていない稲が一束だけ置かれている。

 正反対の位置にある心臓は、実物を見たことがないからか、プラスチックで精巧に作られた偽物だった。

 重さが違うはずのそれらが、シーソーのバランスを均等にさせている。夢でなければありえない光景だ。

 だが、なぜ自分はこんな夢を見ているのだろう。

「昨日は、たしか……」

 記憶をたどろうとして、何も思い出せないことに気づく。

「あれ、なんで」

 必死に昨日のことを思い出そうとするが、全く脳裏に浮かばず、背中に嫌な汗が流れる。急に公園の中が寒くなった気がした。

 本当にここは夢なのだろうか?

 そう思い始めると、記憶がない少年は自信を失っていく。

 もしかして、自分はずっと閉じ込められているのではないか。そんな荒唐無稽な考えが浮かぶほど、少年は追い詰められていた。

 不意に、少年の視界にシーソーが映る。

 もしかしたら、このシーソーがこの状況を解決する糸口になるかもしれない。

 少年がシーソーを傾けようと力を入れるが、固定されているようで全く動かない。

 次に心臓を持ち上げようとすると、シーソーが傾きそうになったので、慌てて元の位置に戻す。

 どちらかを取れば動きそうだが、どういう基準なのかわからない。失敗したら、どうなるのかも。

「……そもそも、ただの夢の可能性もあるか」

 考えすぎて疲れ始めた少年は、意を決して心臓を持ち上げる。

 シーソーの片方が沈むのと同時に、足元の地面が消える。

 少年の体が虚空に放り投げられ、奈落へ落ちていった。




 体中に衝撃が走り、少年が目を開ける。

 そこは、見慣れた天井だった。

「……シーソーに乗れなくなるわ」

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