五題目「束縛  成り上がり  地球」

「お前は、なんで太陽の周りを回ってるんだ?」

 遠くで星が輝く宇宙の中、灰色の月が地球に尋ねた。

「そういえば、なんでだろうね?」

「……考えたことがないのかよ」

「もしかしたら、僕が太陽のことが好きだからかもね」

 ゆっくりと自転する地球に、月は呆れる。

「そんなのんきなこと言ってるから、死んじまうんだよ」

「……どういうこと?」

 月が地球の向こう側にある太陽を見る。

「ちょっとずつ大きくなってるんだよ。太陽がな」

「え?」

 思わず自転が止まりそうになるほど、地球は驚いた。

「そ、そんなわけーー」

「お前よりも、太陽を見てる俺にはよくわかるんだよ」

「……」

 後ろからの熱が上がったように感じて、地球は何も言えなくなる。

「どれくらい、大きくなるのかな?」

「正確にはわからねえけど、太陽に近い俺たちは飲み込まれるかもな」

「……自分が死ぬかもしれないのに、君は冷静だね」

 まるで自分には関係ないかのような態度に、地球は苦笑する。

「星はいつか死ぬんだ。それが早いか遅いかだけだろ?」

 月のさっぱりとした口調に、地球は感心する。

 月とは長い時を共に過ごした兄弟のようなもので、他の惑星からは大きい地球の方が兄のように見えるが、実際は真逆なのだ。

「ま、俺だってこのまま死にたくはないけどな」

「僕だって同じだけど……」

 正直、どうしたらいいかわからなかった。

 自由自在に宇宙を動けるのなら、移動すれば解決する。だが、地球も含めた他の星々も宇宙を漂っているだけで、自分の意思で動いているわけではない。

 どう考えても、無理な話だった。

「後は、お前に住む奴らに任せればいいんじゃね?」

 月の何気ない言葉に、地球は一瞬真顔になる。だが、すぐに笑みを浮かべた。

「そうだね。僕たちでは思いつかない方法があるかもしれないしね」

 自分に住む生物たちを思い浮かべながら、地球はゆっくりと太陽の周りを移動した。








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