二題目「失敗 都会 太陽」

 生暖かい風が頬を撫でる。家を出る前に見たニュースによると、今日は最高気温が三十五度を超えているらしい。

 選ぶのに三十分かけた服は、汗が滲んで模様ができている。

 今日は彼女との初デートだから気合いを入れたのにと思いながら、青年はなんとか待ち合わせの駅にたどり着く。

 駅の日陰で涼みながら、携帯で時間を確認する。

 約束の時間まで五分はあるが、彼女のことだから十五分は待つだろう。昨日考えたデートプランを頭の中で確認しながら、周囲を見渡す。

 太陽の熱戦を浴び続けた人たちが、ゾンビのような足取りで駅に入っていく。

 砂漠でオアシスを見つけた人も同じような気持ちかもしれないと考えていると、不意にアイスクリーム屋の行列が目に入る。

 行列といっても、五組程度しかいない。並んでいるのは女子が多く、手で扇ぎながら暑さに耐えている。

 そういえば、あそこは彼女が行きたいと言っていたアイスクリーム屋だったはず。常に行列が並ぶ人気店のようで、人気のチョコが買えないと嘆いていたのを覚えていた。

 今並んで買えば、デートの最初としてはいい滑り出しではないか。

 彼女の喜ぶ顔が思い浮かび、青年がすぐに行列の最後に並ぶ。

 前の人が注文していき列が進む中、青年の後ろに次々と多くの人が並んでいく。混雑になる前に、滑り込めたようだ。

 ようやく自分の番になり、チョコを注文する。

 しばらくして店員から受け取り、青年がアイスクリーム屋を離れる。

 やっと買えたと安堵した瞬間、青年の足がもつれて倒れ込む。

 咄嗟に膝立ちになってこらえるが、べちゃりと何かが落ちた音が耳に届く。

 青年がゆっくりと音の方を見る。

 チョコのアイスクリームが、地面に落ちていた。

「ごめんごめん。待ったー」

 聞き慣れた明るい声が背中越しに聞こえるが、青年は反応することはできない。

 首を傾げて彼女が、青年の視線をたどる。

「あ、それって41のアイスじゃん」

「ご、ごめん。そのーー」

 それ以上言葉が続かず、青年が押し黙る。

 デートプランが消し飛び、青年の頭が真っ白になる。

「半年前に言ってたこと、覚えてくれたんだ!」

「あ、うん」

「めっちゃ嬉しい!」

 彼女が満面の笑みを浮かべる。

「で、でも、落としちゃったし」

「だったら、もう一回並んだらいいじゃん。行こう」

 彼女が青年の手を取り、再び列に並ぶ。

 彼女の明るさに助けられた青年は、また一つ好きなところができたと感じていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る