最終話
「とその前に」
部屋の扉がノックされた。
「カイ様。すみません。ルルシア様の婚約者であるキラキス様がいらっしゃいました。
「なぜキラキス君がここに?」
そう言ってカイは王太子殿下を見る。
「あぁ、私が呼んだ」
「ならば、ここに案内しなさい」
「わかりました」
そう言って執事が立ち去った後、すぐに執事がキルキスを連れて戻ってきた。
「ルイ?なんだ、突然俺をここに呼び出して?」
「まぁ、見たら分かるだろう。こちら、ルルシア嬢だ」
「ルルシア?あ、ルルシアの監視係の報告か?
昨日は俺の事が大嫌い!って言って勉強を放棄してたよ……」
「あ……」
「ええっ!?」
王太子殿下とアコラが止める間もなくべらべらと喋りだすキラキス。
「その前も、俺の事を憎らしげに見つめてたし。
でも大丈夫だぞ!ルイがいない間、悪さはしてなかったから!」
「あちゃー……」
王太子殿下は頭に手を当てる。
「う、う……」
ルルシアは真っ赤になって泣き出してしまった。
アコラはルルシアのそばに寄って慰めている。
王太子殿下が白い目でキラキスを見つめている。
「お前、やったな……」
「やったって、何が?」
王太子殿下は手で指し示す。
そこには笑ってはいるけど笑ってないカイがいた。
「カイ様!?いったいどうしましたか!?」
「うん、まぁ、とりあえず、私の話を聞いてくれ……」
そうして殿下はキルキスに色々と話し終えた。
「なるほど。つまり、ルルシアは魔女に呪いをかけられていて、それが今日解けたと。
で、それでその呪いの内容っていうのは?」
「本心とは反対の行動をとってしまう呪いですよ。キラキス君」
そこに呪いの内容を暴露するアコラ。
アコラはジトっとキラキスを見ている。
「なるほど、本心とは反対の事をしてしまう呪いか……」
そう言ってキラキスはぶつぶつつぶやき始めた。
そして、手を叩く。
「あぁ、なるほど!つまり、ルルシアは俺の事が好きってことか!」
王太子殿下は勢いよくキラキスの頭を叩く。
「もう少し声をつつしめ!」
「いったー……」
再び黙るキラキス。
そして、キラキスはルルシアの方に来た。
ルルシアは顔を上げる。
「あー、何というか、あのな……」
キラキスは何かを伝えたいようだが、うまく言葉がまとまらないようだ。
「……率直に言おう。
俺は、お前の事、好きじゃない」
「そう……」
ルルシアは下を向こうとする。
しかし、それをキラキスが止める。
「いや、だから、これからもっとお互いの事、知って行こうってこと!」
「……私の事?」
「そう!だって、俺、呪いにかかってた頃のルルシアしか知らないし。
それだけで判断するのは、不公平だろ?」
「不公平って、意味が分からんぞ……」
「まぁ、それは置いといて!」
ルルシアは涙を流しながら、キルキスを見つめている。
「でも、私、キラキスにいっぱい酷い事言ったよ……?」
「それはそれ、これはこれだ!まずは、勉強会からしよう!『勉強は興味ない』なんだろ?成績を上げてかなきゃな!」
「……うん!」
ルルシアは、キラキスの手を取って立ち上がり、前を向く。
「いや、そのことで私はもう一つ話を持ってきたんだが……」
そこに王太子殿下から横やりが入る。
「なんだ?ルイ?俺たちは今からルルシアの単位を取るので忙しくなるんだ!」
「そうです!ルイ君はもう帰って大丈夫ですよ!」
「いや、アコラも教えるのか……ではなくて」
王太子殿下は懐に入れていた紙を取り出す。
そこには、私のテストの答案があった。
「ルイ、それは?」
「少しだけ教師たちの話題に上がっていた答案だ」
そこには、しっかりと間違いを示すバッテンが入っている。
「ルイ君、これの何がおかしいの?」
「そうだな、これがこの状態ですべて間違っているのがおかしい」
「どうしてだ、ルイ?」
「これはな、全問正解できるなら、もうこの国の学者と肩を並べるぐらい難易度の高い問題だったんだ。
でもな、この解答、明らかにそれを理解した上であえてすべて間違うような選択肢を選んでいるんだ。
この問題、全問正解者もいなかったが、全問不正解者は一人しかいなかった。というか、20個の選択肢の中から正解を複数選ぶ問題で運よくすべて不正解できる奴はいない」
ルルシアはきょとんとしている。
「その問題、答えわかりますよ」
「え!?」
「は!?」
「やはりな」
「ルルシア嬢。やはりテストで答えはすべて不正解を選んでいたな?」
「はい。正解が分かると、どうしても不正解が選ばれてしまって……」
「じゃあ、もしかして?」
「そうだな。このテストの点数を逆転させれば、ルルシア嬢は学年トップだ。それどころの話でもないがな」
「ルルシアさんいつも授業中寝てますよね!?」
「はい、だから授業を聞いて覚えることしかできなくて……」
アコラとキラキスは唖然としている。
「そこで、君の将来を見込んで、第二王子との婚約を提案しようと思ったのだが」
「それは無しだぞ、ルイ」
「まぁ、馬に蹴られたくはないからね。だから、とりあえず君を取り込むためにできる限りのことはしよう」
ルルシアは少し、思考を巡らせる。
「あの、できればでいいんですけど」
「なんだい?」
「あの、私の周りにいた人たちがいるじゃないですか」
「あぁ、あいつらね。ルルシアの権威を笠に着てやらかしてた連中もいたみたいだが……」
「ちょっと今から告発とかもしていくんですけど、なるべく情状酌量の余地を与えてあげられないですかね?」
「なぜ?」
王太子殿下の目が鋭くなる。
もちろん、その中には、アコラや他の人間に害をなした人たちもいる。
ルルシアは、言葉を選んで話し始めた。
「確かに、私の周りには、あんまり素行の良くない人たちがたくさんいます。でも、中には私の指示でやらされた子とか、逆らえなかった子もいるんです。それにやらなきゃまずい事情があったり。だから、せめてそういう子たちはって思うんです」
「……分かった。なるべくよくなるように計らうよ」
「ありがとうございます。それでちょっと席を外しますが、よろしいですか?」
ルルシアはカイを見る。
カイは何の為かは分からない様だったが、許可を下す。
ルルシアは「すぐ戻ります!」と言って部屋を出ていった。
そして、すぐにルルシアが大量に手紙を持って戻ってくると、それを王太子殿下に手渡す。
「……これは?」
「その、素行が悪い皆といると、悪い事考える大人がよく来るんです。まぁ、自室では呪いが弱まるので、こういった怪しい取引の証拠がたまっていくだけなんですが」
王太子殿下が中身を確認すると、「これは凄い!」と唸った。
「これなら今まで足のつかなかった組織にも近づけるかもしれない!」
そう言って王太子殿下は立ち上がると、「私はこれを陛下やら大臣やらに見せるために戻る。公爵、今回はお時間いただきありがとうございます」と言い、アコラと共に去っていった。
残ったのは、ルルシアとカイとキラキスだけだ。
「……じゃあ、私もルルシアの手続きを済ませるために戻る。
……二人で仲良くな」
そう言ってカイも言ってしまった。
「えっと、それじゃあ、どうしようか、キラキス」
「……まずは、自己紹介から始めたらどうだ?」
「そうだね……、私はルルシア・クーフェ公爵令嬢——」
「俺は——」
——のちに、歴史に名を残すことになった公爵がいた。
彼女は、人類の学問を数段階上に引き上げ、様々な発明を行って、世界平和に貢献したという。
彼女の発明の中で、最も素晴らしかったものは、後世において発生した『性格を反転させる呪い』に対抗できる魔道具であった。
そんな彼女は、『反転令嬢』と呼ばれ、仲間内から親しまれたそうだ。
彼女の傍にはいつも彼女の右腕となる、夫がいたとか、いなかったとか。
反転令嬢と真面目令息 青猫 @aoneko903
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます