第4話
そんな感じで一年が過ぎたある日の事である。
「ルルシア。何度言えば理解できるんだ?お前の成績はどん底。俺がこうして勉強会までしているのに、この成績はどういうことだ」
「全く持って興味がないので」
(うう……正解がわかるからどうしても間違いにさせられる)
キラキスの手にはすべてに0と書かれた答案が握られていた。
「ルルシア、このままじゃお前は貴族として卒業できるかも怪しいぞ」
(まぁ、こんな奴が正式な貴族になったらそれこそ世界が終わるので)
「その時はお父様に頼りますわ」
そう言って立ち上がるルルシア。
「ちょっと待て!まだ話は終わっていない」
「私、あなたが大嫌いですの。そんな人とこれ以上は話したくないです」
「ルルシア!」
(……本当にごめんなさい)
ここ最近、ルルシアはずっとキラキスと一緒に行動していた。
その理由は、生徒会の不在だ。
生徒会は聖女であるアコラと、勇者となった王太子殿下で、古の魔女と呼ばれる厄災の討伐に向かった。
その時にルルシアに対する抑止力として留守番を命じられたのが、婚約者であるキラキスである。
ルルシアは、心の底から大変申し訳なく思っていた。
自室に戻り、一息つく。
(あともう一年半。どうすれば、キラキスを自由にしてあげられるかしら?)
あの時から、すこしずつ気になってはいて。
そんな想いに気づいたのは、不思議なことに呪いのせいだった。
(『あなたが大嫌い』、か)
少しだけ、ほっぺたが赤くなる。
でもこの思いが他人に知れることは無い。
どこか寂しいけど、でも、ホッとする。
(呪いを持ってる女の子なんて、好かれるはずはないし、それに私が好きであればあるほど、言動はとげとげしくなっていく)
ルルシアはベッドに入り、目を閉じる。
(いつか、キラキスが、良い人に出会えますように)
——その夜。
女性の断末魔が聞こえた。
でも、不思議と嫌な感じはしなかった。
どこか、体が軽くなっていくようで——
——朝。
ルルシアは豪華絢爛な部屋で目を覚ます。
ルルシア自身、豪華なのが好きじゃないことが、全く正反対に出た結果だ。
そこにメイドが入ってくる。
最近は、何も言わず、ただ支度を済ませて紅茶を用意するだけになった。
きっと、これだけでもありがたいことなのだろう。
そうルルシアは思う。
支度が済み、紅茶が出される。
いつも通りの匂いに顔をしかめるルルシア。
あの日、あの紅茶を拒否してから、この紅茶が出されるようになった。
ルルシアの嫌いな匂いに嫌いな味は呪いのルルシアのお気に入りの味なようで、いつもごくごくと飲み干す。
今日も、いつも通りの紅茶が出される。
(嫌だなぁ)
そう思いながらも、ルルシアはそっと紅茶に手を伸ばす。
しかし、そこでルルシアは違和感を覚えた。
(手が思い通りに動く?)
紅茶を手に取り、いつものように飲み干す。
(苦っ!!)
「苦っ!!」
しかし、いつものように飲み干そうとした喉は拒否反応を示し、つい吐き出してしまう。
「ルルシア様!?大丈夫ですか!?」
メイドは慌ててルルシアに駆け寄る。
こういった時にきちんと対処しないと、ルルシアから罵詈雑言が飛んでくることは想像に難くないからだ。
(あぁ!?ごめんなさい!)
「あぁ!?ごめんなさい!」
そう言ってあたふたするルルシア。
「お嬢様?」
(あれ?)
ルルシアは、違和感の正体に気が付く。
(ちゃんと、しゃべれてる?)
そのことに思い至った彼女は、すぐに立ち上がり、紅茶を拭こうとしたメイドを制する。
「え、いや、あの、まずは紅茶を拭かないと……」
「いいの。まずしないといけないことがあるから」
そう言って、ルルシアはピタッと90度に腰を曲げる。
「今まで本当にごめんなさい!!!」
「……え?」
それからルルシアは、母リシアのいる部屋に行って、彼女に抱き着いた。
「お母様~!!」
ルルシアはわんわん泣いている。
「え、ルルシア!?どうしたの!?」
「本当に良かった~!」
リシアはルルシアの父カイと一緒にいたようで、二人とも困惑している。
リシアは抱き返した方がいいのか、でもまた拒絶されるのではないかと迷っていたが、覚悟を決めて抱き返す。
しばらくの間、ルルシアは久しぶりの母の胸で泣いていた。
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