第2話
彼女の地獄はまだまだ始まったばかりであった。
友達に会いに行けば、
「あんたなんて大嫌い!もう顔も見たくない!」
と体は勝手に友達のほほを叩く。
好きな食べ物であったはずのお菓子も
「こんなの食べたくない!」
と言って投げ捨てる。
両親に病院や教会に連れて行ってもらったこともあったが、「異常なし」と言われてしまった。どうやら、女性のかけた呪いはとても高度でちょっとやそっとじゃ見つける事さえできないようである。
両親に呪いの事を言おうとも思った。しかし、出てきたのは両親を傷つけ、悲しませる言葉ばかり。
子供は十歳から夜会に参加できるようになるのだが、女の子のグループに行こうとすると、いつも足は性格のあまりよろしくないような男の子たちが集まるグループに向かう。
しかも、そんな事は望んでないのに、体は勝手に男の子にしなだれかかろうとする。
仲良くしたいと思った人たちには嫌がらせを行って遠ざけられ、仲良くしたくなかった人たちと仲良くなっていく。
高飛車で、傲慢。常にだれかを見下している。そんなまさにダメ貴族を体現したような存在に彼女はなってしまっていた。
ルルシアが、ルルシア自身でいられたのは、誰もいない自室の中だけ。
自室で彼女は、いつも泣いていた。
そんな彼女も15歳となり、学園と呼ばれる一応平民から王族まで広く門を開いている学問の場にやってきた。
(お父様も、無理をして学園に入れなくてよかったのに……。でも、貴族としては必須のステータスだから、しょうがないのかな)
貴族は、この学園に通い卒業して初めて、本格的な貴族としての活動が始まる。例えば、どこかの家に嫁いだり、国を支える官職になったり。
しかし、彼女の成績は全く良いとは言えなかった。
入学に必要な知識どころか、子供が習うような算術もできない。
周りからはそういう目で見られている。
おかげで、この学園にもお金を使った裏口入学という形でしか入れなかった。
「見て!あれ、平民だわ!」
「この学園に平民が通うの?まぁ、なんて汚らわしい!」
「なんでも、今代の聖女であるとか!」
ざわつく視線の向く先を見ると、まぁ、なんともかわいらしい女の子が初々しく校門の前に立っていた。
(あぁいう子と、お友達になりたい)
そう思った瞬間に、女の子がこちらに歩いてくるではないか。
(え、えぇ!?)
どうやら、一番近かったのが私だったらしく、女の子は困った表情で話しかけてきた。
「すいません、ここから事務室までの道ってわかりますか?」
ルルシアは、なんとか答えられないものかと考えて、答える。
(は、そんなこと、知ったことではありませんわ。どこかに去りなさい)
「平民風情が!この私に声を掛けるなどおこがましいですわ!」
ルルシアは、心の中で落ち込む。
表情は怒りに満ちている。
(やっぱりこれじゃだめか)
心の中で一応、女の子に対してひどい言葉を言ってみても、どうやら呪いはルルシアのさらに心の奥深くにある親切な言葉の反対をついてくるらしい。
どうしても、誰かと話をしなければならない時に時々心の中で相手の悪口を言ってなんとかうまくいかないか試しているが、効果はない。
さらに、ルルシアの腕は引き上げられ、彼女を殴ろうとしている。
(まずい!)
ルルシアは彼女の腕が振り下ろされることを必死でこらえる。
成長して呪いに少しだけ反抗できるようになったが、せいぜいが数秒腕を止めるぐらい。
(もう、無理……!)
「おい、やめろ!」
その時、腕をつかむ誰かがいた。
「……キラキス!!」
ルルシアは憎々しげに男を見上げる。
「……やりすぎだろう!」
「彼女は平民よ!この公爵令嬢たる私が何しようとも構わないじゃない」
「そんなわけないだろう」
(私もそう思う)
ルルシアは心の中でキラキスに同意した。
「さぁ、今のうちに行け。事務室はあの大きな建物に入ってすぐ右だ」
「……は、はい!ありがとうございます!」
女の子は走り去っていく。
キラキスは私の手を離す。
「……何回言えば分かる?確かに貴族は平民よりも権限が強い。しかしそれは平民を守るものだ。決して平民を虐げるものではない」
「そんなこと知らないわ!いつもいつも私の邪魔ばかりして!」
(本当に助かってます)
そんな事を思いつつ、立ち去るルルシア。
良いとは言えない一日が始まる。
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