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「精霊さん、ソニアの準備が整ったの。きっと、今年こそは素敵な景色を見せてくれるはずだわ。そしたら、見に来てくださいね。そうだ! ねぇ、精霊さんたち、ウェルス様に似合うお花は何かしら、マンジュリカにゲンティア、ハイドランジアどれも似合いそうなの」
花の姿を思い浮かべながら指を折る私の頬を、さわり、と風が撫でる。こんな時は、何となくだけど、近くに精霊たちが居る様な気がしている。その風の中、降り注ぐ光の中、掘り起こして柔らかくなった土の中、色々な所から私を伺っているような、そんな不思議な感じ。
お話出来たらどんなに楽しいだろうと思うけれど、魔力と無縁の私には難しいかも知れない。
「うん、そうだね。マンジュリカ……より、ゲンティアだ。俺もそう思うよ」
「なるほど、ゲンティアかぁ……えっ? 」
もしかして、精霊? それにしてもカーティオ様のお声に似てる気が……。
確かめるために、そっと顔を巡らせて声のした方を向いてみる。
「!?」
「やぁ、こんにちは。精霊たちが君の噂をしていたから見に来たんだ」
「え、あ……あの、カーティオ様。あの、噂……て」
突然の登場に、何時も神出鬼没だな、なんて思う余裕などは決してなく、彼の周囲にふわふわと浮かぶ光たちに目を奪われる。
なんだろう、これ。綺麗だな。
そんなことを考えていると、その中の一つが私の方へ向かって飛んできた。
「精霊を見たことはある? 君はどうやら彼らのお気に入りのようだけど」
えっと、カーティオ様はウィザードの中ではすごい人で、マスターの称号を持ってくるくらいすごい人で……。だから、きっと精霊たちとは仲良くされているって事は、分かっているけど。要するに、私とは無縁の世界で。だから、精霊が私に見えるはずもなく。
とりあえず、頭をぶんぶん振る私が面白かったのか、あははと楽しそうな笑い声を上げるカーティオ様。
「そんなに頭を振ったらだめだよ。せっかく、綺麗にしてるのに。それに、フィオリーレにも叱られちゃうでしょ」
「フィオ……フィオリーレを知ってるんですか? 」
そこまで口に出して、カーティオ様は研究室によくいらしてるとフィオが話してくれていた事を思い出す。
「そう、研究室でよく会うよ。彼女、とても優秀だから助かっているし。数年後、きっと彼女はあの場所の中心に居ると思う」
そう褒められるフィオの事を私は誇らしく思った。サードに上っても輝く彼女を見る事は私には叶わないけれど、きっと、カーティオ様の仰る通りになるだろうと信じられる。
サードに進むのは上流階級の子供ばかりだ。中にはそうでない人たちもいるが、それは何かしらの分野で優秀な人。私のように特に能力のない普通の子は、セカンドの卒業と共にアカデミーを離れる。
だから、数年後、私はメディウムに戻っていて、父さんの手伝いをしているはず。貴族の彼女とは、もう話す事も、いいえ、見る事すら出来ないだろうと思う。
仕方のないことだと分かっているが、そう思うと急に寂しくなってきてしまった。
すると、カーティオ様の傍にあった光がふわふわと私の周りに集まってきた。それが何だか元気を出してと言っているような気がしてくる。
「精霊さん? ありがとう」
「ここを何時も綺麗にしてくれているからと、よく彼らが話してるよ。君も、彼らの声が聞けるといいのに……。そうだ、それがいい」
「あ、あの……」
「ちょっとじっとしてて」
何か、私の知らない所で話が纏まったらしい。言われるまま、じっと固まった私は、視線だけで周囲を漂う光を追う。
私の後ろに立ったカーティオ様は、両手でそっと私の瞳を覆った。そして、咄嗟に目を瞑った私に、優しい声で語りかけてくる。
「ほら、耳を澄ませば彼らのささやきが聞こえるはずだよ。大丈夫、君は聞こえる」
くすくすと笑う声が沢山する。その中には私の名を呼ぶ声も……。
「フラウ、フラウ……私ね、赤色の花を咲かせて欲しいわ」
「私は黄色」
「青よ! 」
「いいえ、赤よ。絶対」
目を覆っていた両手を退けたカーティオ様は、早速、私の後ろで笑い出した。
国にいた頃、国内の行事で見かける姿は、何処か冷たい印象を与えていたけれど、ここにきてからは真逆の印象を持つようになった。きっと、共にいる方々へ心を許しているのだろう事は、普段のカーティオ様の様子から良く分かる。
「えっと……いろんな色のお花を咲かせますから、皆、喧嘩しないで」
まぁまぁと宥める私、話し続ける精霊たち。その両方を眺めながら、カーティオ様はずっと笑っていた。
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