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式典が終わり、寮に帰った私たちは、普段着に着替えるとそれぞれの目的の為、そこで別れた。
フィオはサードに上ったら研究所に入るのだと決め、今から出来る事をと時間がある時は研究所へ手伝いに行っている。
サードには様々な研究機関があり、その運営は学生たちが主体となっている。その中の一つ、魔術研究所の現在の主席研究員はシルファ様だ。
しかし、彼女がサードに上った頃には、シルファ様はアカデミーを卒業されている。それでもいいのかと問うたことがあるが、シルファ様がいるから行くのではない、シルファ様の軌跡を辿り、意志を継いでいくお手伝いをしたいのだと言われた。
そう語った彼女の笑顔はとても輝いていた。
私はというと、先程の作業の続きと片づけを陽が落ちる前にやってしまいたいと、庭園へ戻っていた。
「さぁ、もう少し……。夏は、橙色に染まって、綺麗になるわよ」
今植えているソニアは、ソリオ様かしら。皆さんと一緒にいらっしゃるときのあの穏やかな笑みは、ソニアの花のようにあたたかだもの。
球根を埋める隣には、マイオソウティスの花が揺れていた。青く小さな沢山の花をつけるそれは、さわやかな笑顔を浮かべるクラヴィス様に似ている。
森の入り口にはペッシュの木。もう落ちてしまったけれど、淡い赤の可愛らしい花をつけるそれは、そうフォルテ様のようね。
リデル様は花っていうより、森を支える樹のようだわ。この庭園にも幾つか樹が植えられているけれど、それと同じように皆を見守っていらっしゃるような気がする。
物静かなウェルス様はなんだろう。マンジュリカも似合いそうだし、ゲンティアも雰囲気が似てるかしら……。ハイドランジアも捨てがたい。あぁ、ウェルス様だけは決められない。
「よし、これで最後。夏が楽しみ……皆、綺麗に咲いてね」
森に一番近いところへソニアの球根を植えたのは、その場所からは、庭園が一望できるからだ。逆に言えば、庭園に入って来た時に顔を上げればその場所に目がいく。
もともと、この庭園を管理していたのはサルトスの王宮付きの庭師 ホルトさんだった。アカデミーに入った頃、時間があればここへ通い詰めていた私は、ホルトさんと顔見知りになり、手伝うようになった。
ホルトさんからは色々な事を教わった。花たちは、よく人の事をみているのだとか……。だから、楽しい気持ちで花たちに語りかければ楽しく揺れるし、悲しい気持ちで眺めればどこか項垂れている。言われてみれば、確かにそう見えた。
何時かメディウムの城の庭師を務めるのが夢だと語った私の頭を、ホルトさんの大きな手が撫でてくれた。
そして、セカンドへ上がったのを機にここを任されるようになった。
それからも、ホルトさんはたまに見に来てくれて、その度に色々な助言をくれる。庭園の設計に迷った時は、精霊の声を聞くといいと言われたのは、一度、植えた花を枯らしてしまった時だった。悲しくて、辛くて、花たちに何度もごめんと告げる私に、深くしわが刻まれた顔を緩めて泣かなくても大丈夫だと言ってくれた。
『フラウ、精霊たちの声を聞くんだ。彼らは美しいものが大好きだからな。きっと、お前さんに力を貸してくれるだろう』
それから私は、迷った時は必ず、嬉しい時も同じように姿の見えない精霊たちに話しかけた。まだその姿を見たことはないけれど、そうして語りかけた時には、何だかすっきりして考えが纏まるのだ。だから、きっとそれが精霊たちの導きだと信じている。
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