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大講堂は就任式典に出席する生徒たちで溢れていた。
本来はセカンドの生徒のみがその式典への参加を強制されているのだが、見るからにセカンドの生徒だけではない数である。
「予想通り、すごい人ね。空いてる席はあるかしら」
「フィオ、あそこ……運よく二席空いてる」
急いで手を繋いだまま階段を駆け下りていく。
着いた席は、お世辞にも良い席ではなかったが、こんな人の多い中で隣り合った席があったなんて幸運でしかない。きっとこれも女神さまのお導きだわ、なんて思ってみる。
「はぁ……今日もシルファ様は本当にお美しい。私もあんなふうになりたいわ」
高学年となるサードの自治をするのはフテラ。その首席でもあるシルファ様は、ウェルス様とティエラ様のお姉様で、この国 サルトスの次期女王となるお方だ。背筋をピンと伸ばし、颯爽と歩く姿はリリーの花を思わせる。
私に言わせればフィオも決して負けていないと思う。意志の強いところや、周囲への気配りや私に向けてくれる情愛も。しかし、それが彼女に対して、賛美とならないことも私は知っているから、心の中で思うだけで、彼女の言葉に素直に頷いた。
続いて現れたステラの面々に私はほぉっと溜息をもらす。着飾ってまでここへ来たのは、彼らを見るために他ならない。
今日は特別な日だからだろうか、普段のラウンジや学舎内で見かける彼らよりも、少しだけキリリとした雰囲気で、いつも以上に素敵に見える。
シルファ様が真っ白なリリーの花だとしたら、彼らは何だろうと考えてみる。
リテラート様の守護石は、燃えるような赤い色だと聞いたことがある。当然、見たことはないが……。燃えるような赤、そうだな、幾重にも花びらを重ねる赤いローザかしら。あぁ、そうね、一際、華やかでどれだけ他の花がいようとも決して霞まないそれが相応しい。
じゃぁ、カーティオ様はどうかしら……。実は、カーティオ様の守護石 瑠璃は、一度だけ国にいる時に見たことがある。深い海の色を映したような青、メディウムの海だと、幼い私は思った。コメリナ……そう、コメリナだわ。染料にも使われるとても深い青は、しっかりと私の心を染めていったもの。
次はティエラ様。輝くような笑顔と光を集めた様な金色の髪がステキな方。そうね、ヘリアンサスだわ。夏の日差しをたっぷり浴びて、お日様を映したような、そこに居るだけで心が温かくなるような……。
「素敵だわ。庭園の設計にも役に立ちそう」
「フラウ……また花たちの事を考えていたのね。仕方ない人、目の前にあなたの憧れの花たちが居るっていうのに」
「それとこれは別よ。遠くから見て楽しむ花もあれば、手ずから育てる楽しみの花もあるのよ」
「そう……じゃぁ、あなたは私の花って事ね」
「もう、また、フィオったら……」
「華の命は短いから、せいぜい愛でられるうちに愛でるのよ」
くすくすと笑ったフィオに、どこかくすぐったいような気持ちを抱きながら、再度、壇上へと視線を向ける。ちょうど、そこでは首席のリテラート様が誓いの言葉を述べている所だった。
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