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そして今……
あの後は大変だった。同室のフィオにラウンジでのことを問い詰められるし、次の日は同じクラスの皆に囲まれるし。
本当に、何でもないのだ。たまたま、きっとカーティオ様の興味を引いた何かがあっただけ。それが何かは分からないけれど。
「皆、今日も綺麗ね。素敵よ。お天気がいいから、かしら」
私の実家は、メディウムで城の庭師をしている。城の庭園もアカデミーの庭園と負けずと劣らずの素晴らしい庭だ。
一度だけ、小さな頃、父の手伝いで訪れたことがある。色とりどりの花が咲き誇るあの場所は、何年も経った今でも忘れられずにいる。だから、父のような立派な庭師になって、城の庭園を美しいままに保つのが私の夢だ。
作業の為にしていた手袋を取ると、それでも土で汚れた手がそこにあった。球根を埋める為に道具だけでなく、自分の手で掘ったりしたものだから爪の間にも細かな土が入ってしまい黒くなっている。
あぁ、これは念入りに洗わないと取れないな、そうしないとフィオに叱られると考えて、ふっと口元が緩んだ。
寮で同室のフィオリーレは同じメディウムの出身だが、彼女は貴族の娘だ。それなのにお付きの人をつけずにアカデミーにやってきた。ちょっと変わっていると言ったら怒られるが、実際変わっているのは、こんな平民の私に全然偉ぶることもなく接してくる事だ。
生まれた家が違うだけ、とは、彼女の談だが、それを実際に行動に移せる人は、上流へ行くにつれて少なくなるというくらいは、私でも知っている。
「フラウ! やっぱりここにいたのね。ほら、ステラの就任式典がもうすぐ始まるわ。早く、手を洗って。行くわよ」
噂をすれば……とは、誰が言った言葉だっただろう。たった今、思い浮かべていた相手が現れた事にくすりと笑いが漏れてしまった。そんな私を不思議そうに見つめる大きな瞳に、今日もこの人は綺麗だなと改めて思う。
「ほら、ぐずぐずしない。服は……うん、こっちは大丈夫ね。ちょっと! 何よこれ! 」
私の手を取ったフィオが悲鳴を上げる。爪の間まで土が入ってしまい黒くなった指先を見たからだ。
女の子は、手足の爪の先まで気を使わなければならない。そう常々言っているフィオにとって、今の私の手の状況は信じ難いものであっただろう。
だが、そこで握っている私の手を離さない所が彼女である。
「あの、これは……」
「分かってるから大丈夫よ。だって、あなたがここの手入れをしてくれてるから何時も綺麗な花が咲いているんですもの。それを責めるつもりはないわ。けどね、フラウ」
「「華の命は短いのよ」」
私と彼女の声が重なった。
だって、これは何時も私を着飾ろうとする彼女が口にすることだから。
ふっと笑う彼女と手を握り合って笑う。彼女といると嬉しい、楽しいと、心から思う。後二年、それだけの関係だとしても、きっと彼女との時間を一生忘れる事無く、大事にしていけると思うほどに。
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