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 …… 一年前


「リテラート、専門棟の使用申請が来ていますので、早めに処理を」


「分かった。上に行ったらやる」


 あぁ、見たことがある……と言っても、遠目にだ。

 何せ相手はルーメンの中央の国 サンクティオの王子様とそのお付きの人だから、そもそも有名人だ。しかし、こんなに近くで見たのは初めてだなぁと、なんとなしに見つめてしまっていた。

 本当に自分と同じ人間であるなんて……あ、違った。この人、神子だった。そもそも、同じですらなかった。やっぱり纏うものが違うよなぁ……なんて。


「君は、リテラートがいい? 」


「えっ? 」


 不意に後ろから掛けられた言葉に、振り返った私は、目の前にあるその顔に後退り、そのままバランスを崩して尻もちをついてしまった。ガタガタと椅子を鳴らしてしまったため、いや、目の前の人の影響も多分にあるんだけど、余計と注目を浴びてしまい俯くしかない。


「あ、えっと、ごめんなさい」


「君が謝ることないよ。急に声を掛けたカーティオが悪い」


 そっと手を差し伸べてくれたのは、これまた神子の一人でこの国の王子であるティエラ様だった。

 えっ、なにこれ、神々しい笑顔ってこういうのだ。

 そんな眩しい笑顔を見せられてしまったのだから、思わず固まっても仕方ない。


「大丈夫? ごめんね。君があんまり熱心にリテラートを見てたから」


 くすりと笑ったその顔がまた眩しい。いやいやいや、そうじゃなくて。ちょっと何、私の寿命ってこんなに短かったの? 一気に神子様たち三人とも近くで見れてしまうなんて、私はきっともう死んでしまうんだわ。きっと、これは女神さまたちが私に最後のご褒美をくれたのよ。


「君、面白いね。ちなみに、俺たちを近くで見たって君は死んでしまったりしないしよ」


「……へ? 」


 どうやら心の声は、全部、口から出ていたらしい。


「ごごご、ごめんなさい! 」


 どうしよう、どうしよう。

 恥ずかしいし、親衛隊の視線が痛くて顔が上げられない。


「カーティオ、そういうの僕なんて言うか知ってるよ。誑かすっていうんだよ」


「さすがに程々にしておかないと、その内、刺されるよ」


「そうなったら看病するのって、俺? 」


「適任だろ。同室だし、癒しの力もあるしさ」


 頭上から次々に浴びせられる言葉に頭がくらくらしてきた。顔を上げなくても分かる。だって、カーティオ様にこんな風に言える人たちなんて限られてる。カーティオ様の弟のフォルテ様と従弟のクラヴィス様、ティエラ様のお兄様のウェルス様と側近のリデル様。

 どうして、こんな事になってしまったんだろう。空がとても綺麗だったから、少しでも近い位置で見られたらって、ラウンジへ上がって来ただけなのに。



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