第30話 迷宮
「訓練中だったんですよ。まさかアスラくんが
いけしゃあしゃあと伊藤咲奈は言った。
丘に着陸したおれと長老を迎えたのは伊藤咲奈と何人かの戦士候補生達だった。戦士候補生とは戦士になる前の子供達だ。年齢的には高校生くらいだろう。行く人か見知った顔もいる。大体は誰々の姉か兄だから当然なんだけれども。
しかし、訓練ときたか。
長老は沈黙している。西の森で訓練を行うなんて話はこれまで聞いたことがない。ここは、あくまで大人ですら近づいてはいけない危険な場所なのだ。
そもそも、今日訓練があることを知っているなら長老は真っ先に彼女へ接触しようと試みるはず。それをしていなかった時点で伊藤咲奈たちがここにいることを長老は知らなかったはずである。
なのに、長老は沈黙しているのだ。
長老は何故か伊藤咲奈に甘い。甘いというか、どちらかというということを聞いているような節がある。表に出ないだけで大和との関係には何かしらの上下関係があるのかもしれないとおれは見ている。
「アスラを見た者はいるか?」
「いませんよ。気づけば保護してます」
伊藤咲奈は言った。
何故か、戦士候補生達が妙に緊張しているように見えた。おれにすら見てとれるほどの違和感に長老が気づかないはずもない。けれど、それを指摘するには伊藤咲奈が邪魔だ。
おれが口出しするなんて真似はしない。正直、未だに子供のおれが長老と一緒にいる時点で不自然なのだ。伊藤咲奈だけならまだしも、他の村人たちがいる前で悪目立ちだけは避けたかった。ボスに気に入られてる後輩ほど目障りなやつはいないってのはどの業界でも共通の認識のはずだ。
「わかった。では、わしらはこの周辺を探す。お主は集落へと戻って」
「いえ、このまま探索を進めましょう」
「…なんだと?」
こいつ、何言ってんだ?
流石に長老の声も険しくなった。当たり前の話だ。この場の大多数がまだ子供なのである。戦士候補生なんて言われていてもまだ高校生でしかないのだ。それが大人でも危険な迷宮に潜るなんて無謀すぎる。
伊藤咲奈は動じていない。
長老から発せられる雰囲気に気づいているだろうに少しも臆した様子がなかった。
「彼らはすでに大人たちと遜色ない能力を持っています。足りないのは経験だけ。探索は時間勝負ですし、これもいい機会になると思います」
「本気で言っておるのか?」
「ええ、もちろん。それに長老もいますし、おそらくは迷宮内でも上層にいるはずですからね。そこまでなら、彼らでも十分に対処可能でしょう」
「なにより、私がいますから。何が起ころうと大丈夫ですよ」
信じられないことに、長老は伊藤咲奈の言葉を信じたようだ。
おれたちはそのまま
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