Ir-S-4「Outbreak-地平戦略-」
目の前に立ちはだかるゆうに1400mを超える巨体。
「スペリア?!」
舗装された道に巨体に比較して圧倒的に弱小な少女1人に何が出来るだろうか?
「否! 私にしかできない!」
私が全身に力を入れて目の前の敵に集中する。
街に灼熱が渦巻く。
血管を流動するように爆炎が私を中心に集約する。
『
◯
私達は、放浪する者を受け入れる移動都市ガルナラルクに搭乗し、街で日雇いの仕事をしている。
ルミメィルとアイスは、今日泊まるホテルでくつろいでもらっている。
アイスさんが代わりに働くと申し出てくれたが、まだ幼いルミメィルと一緒にいてもらえた方が私は安心できた。
「スペリアちゃん! 次、こっち頼むよ〜」
「はい! 今、参ります!」
忙しなく働く。
お盆を片手に機材を両手に鋼材を載せた台車を手に汗水垂らして一所懸命に働いた。
夜、ホテルに戻ってドアを開く。
「たっだいま〜」
「スペリアさぁん!」
ルミメィルが私に走り寄ってきて抱きつく。
「ルミメィル。良い子にしてた?」
「うん!」
「そっかそっか。よしよし」
私がルミメィルの頭を撫でていると、奥からアイスが出てくる。
「スペリア……さん? お疲れ様〜」
「ありがとう。でも、スペリアでいいよ」
「そうか。スペリア、どれくらい稼げた?」
そうアイスが言うので、私は稼いだ地上共通通貨のクリスタを詰めた袋を開いてみせる。
「おぉ! こりゃしばらく遊んで暮らせるくらいに稼いでるな〜」
「遊びません! 食糧と必需品の費用になるんだから」
「そうだよな〜」
「今日ももうご飯買ってきたから早く食べよう」
私は更に食糧を詰めた袋をテーブルに置く。
「えぇ?! 惣菜じゃないのかよ!」
「お惣菜もあるけど、しっかり料理もするからちょっと待ってて〜」
そう言って、私はお風呂の用意をする。
「先に汚れ落としてくるから〜」
そう言って、私はバスルームに入った。
アイスは、それを見てそそくさと買い物袋の中を漁り始めた。
中には、新鮮な野菜や肉、魚、調味料の他、値下げされた惣菜とパックご飯、缶詰め、飲料水、そしてルミメィルがいつも好んで食べる駄菓子が2袋。
「なんで、こんなガキが優先されるんだよ……」
「ねぇ、アイスさん。クマちゃんちょうだい」
そう無邪気な笑顔で両手を広げる。
俺は何を思ったのかクマのグミの袋を手に取ってルミメィルに向けて投げつけた。
「ヘブッ!」
丁度、ルミメィルの頭に当たり、彼は体制を崩してそのまま床に倒れた。
そんな様子をシャワーを浴び終わって出てきた私は目撃する。
「あんた! 私のいないところでそんな事をルミメィルにしてたの!?」
「いや、これは……違くて……」
「最低! 出てって!」
「本当にごめん!」
「ダメ! 出ていって!」
そう私が怒鳴ると、アイスは青ざめながら部屋を出ていった。
扉が閉まったのを聞いて、ルミメィルに駆け寄る。
「大丈夫? 怪我はない?」
「う、うん大丈夫」
「そっか……良かった……」
私は床に散らばったお菓子を拾った。
「ルミメィル。夕飯にしよう。手伝ってくれる?」
「うん! 手伝う!」
漁られた袋からそれぞれ具材を取り出し、備え付けられた調理機材を準備し始める。
私にとってそれが少々の罪悪感を紛らわせる方法だったから。
そして、その時の私達は都市に迫る巨大な影に気づかなかった。
◯
3人分の料理が仕上がったが、1つの空席が冷ます。
「スペリアさん! 今日も美味しいよ!」
無邪気に笑むルミメィルの言葉は私の中に留まらなかった。
「うん。ありがとう」
そう言いながら、スプーンで掬ったスープを口に運んだ時だった。
けたたましく部屋の電話が鳴る。
私は受話器を取り上げ、耳に当てる。
「もしもし?」
「スペリアさんですが?」
その声は、この都市の艦長だった。
「艦長様? どうなさったんですか?」
「不味い事態なんだ! 早急にこちらに来てもらえないか?」
「そうですねぇ、そうしたいんですが、今連れが出ていて子供を見ていられる人がいないんですよ」
「子供か……うぅむ、じゃあワシに預けてくれ! ワシは子供の世話ならお手のものだ」
「しかし、それでは迷惑なんじゃ……」
「迷惑なんかじゃない。それにこの都市を今守れるのは、スペリア君、君だけなんだよ。頼む!」
私は少し躊躇ったが、すぐに返事をした。
「ありがとう! じゃあ、早急にこっちに来てくれ」
「わかりました」
そうして、受話器を置いた。
ルミメィルは、不安そうな表情で私を見る。
「大丈夫。ルミメィルは、私が守るよ」
そう言って、私はルミメィルのほっぺに両手を触れて口角を引き上げるように少し力を入れる。
「ちょっとの間、この移動都市の艦長さんが一緒にいてくれるから安心してね」
「艦長さんってどんな人?」
「そうね〜。見た目は強そうって感じだけど、すごく優しい人だよ。きっと、ルミメィルも気にいるよ」
そう言いながら、外出の準備を終える。
「じゃあ、行こうか」
そう言って、私はルミメィルの手を引いて部屋を出た。
◯
【数分前】
「ピットの安定性……良し、操作桿の感度……良し、視界モード……暗視、関節部接続確認を要請」
「関節問題なし!」
「了解!」
そう言って、俺は操縦桿を握る。
「Hello,Mr.
「アティアちゃん。今日もよろしく〜!」
「もう折角かっこよく決めたと思ったのに、雰囲気最悪〜」
「んなこと言うなよ! 俺が操縦するからには、今日も最高のフライトにしてやるよ」
「視界接続完了」
アティアの音声が流れると、ルーンの操縦席の300°に周囲が映し出される。
「暗視モードに切り替えてくれ」
「暗視モード起動」
「そいじゃ、射出口展開! 射出台上昇」
すると、基地内からの無線から声がする。
「射出口展開よし、上昇を開始する! 幸運を祈る」
「あぁ! 任せとけ!」
昇降機がゆっくりと上昇する。
「ベロウ・G射出完了」
「ブーストモジュール起動。着地に備えてください」
そうアティアが言った次の瞬間、着地の振動が伝わる。
「標的まで5km。フルオートコントロール起動」
「あぁあぁ! そんなの使わねぇ! マニュアルに戻せ!」
「分かりました。マニュアルコントロールに切り替えます」
「よっしゃあ! 行くぜぇ!」
そう雄叫びを上げて地上を勢いよく走り出し、速度が付いたところでブーストモジュールを始動して宙に浮き、翼を展開し、低空で滑空する。
その先5kmには、移動都市が航行していた。
◯
「都市内に滞在している皆さま! 現在、ガルナラルクは敵機により攻撃を受けています! 早急に機内に避難して下さい! 繰り返します! ガルナラルクは敵機により攻撃を受けています! 早急に機内に避難してください!」
街に小型のミサイルが着弾し、火炎が街を覆う。
街に滞在していた人々は、火炎に恐怖し、警報に混乱する。
アイスも人の波に揉まれながら避難する。
そんな時、スピーカーにノイズが走り、男の声が聞こえ始める。
「あ〜。あ〜。これもう繋がってるか? もっしも〜し、ガルナラルクの皆さん! 今からこの都市は我々、グリフィオンの管理に入る! もちろん、異論は認めない! 抵抗する奴は、全員殺す!」
その直後、高いビルの間から巨大な影が顔を出す。
そして、アイスの視界には見えていた。
見覚えのある少女が……
目の前に立ちはだかるゆうに1400mを超える巨体。
「スペリア?!」
舗装された道に巨体に比較して圧倒的に弱小な少女1人に何が出来るだろうか?
「否! 私にしかできない!」
私が全身に力を入れて目の前の敵に集中する。
街に灼熱が渦巻く。
血管を流動するように爆炎が私を中心に集約する。
『
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