Ir-S-2「Conflict-琰魔衝突-」
「僕からもスペリアさんに質問なんだけどさ。何で服着てないの?」
「雨で全身濡れちゃって服着替えてたんだけど、すぐに着替えられない理由があって」
そう言って近くに落ちていた布切れを拾ってルミメィルに見せる。
しばらくすると、布切れに発火し、一瞬で塵になる。
「えっ! どうやってやったの?」
「う〜ん難しいことを言っても分からないだろうから簡単に噛み砕いて説明すると、私の身体は君の身体とちょっと違って、体温が高い状態で火の付く物に触っちゃうと、さっきの布みたいに燃えちゃうからすぐには服を着れなかったんだよね」
「じゃあ、スペリアさんは火を出せるんだね! すごい! 魔法使いみたい!」
「ふふっありがとう。でもね、これもそんなに便利なものじゃないんだよね。まぁ、料理とか灯りとかに使えるから一概に不便って訳でもないから癖者なんだよ」
そんなルミメィルの無邪気で素朴な疑問に私の張り詰めた心情を緩ませた。
◯
しばらくして体温が普段ほど落ち着いき、私は服を着た。
その頃には雨が止み、光芒が水溜りに差す。
「よし、そろそろ行こっか。の前に」
そう言って、私はルミメィルにペンと紙を出す。
「これをここに書き残しておこう」
「そんなので見つけてもらえるの?」
「見つけてもらうに直結するかどうかは別として、お父さんとお母さんがこのメモを見つけてくれたら、君が生きてるって安心できるでしょ? 次はどこに向かってるのかとかもわかるしね。きっとこれを書くことに意味があるよ」
「うん! わかった!」
そう言って、ペンと紙を手に取って書こうとする。
「書きづらいでしょ?」
私はそう言って、ルミメィルを抱き上げて、カウンターに届く高さと距離で保った。
「書けたよ!」
そう言って、ルミメィルは今の状況、次に向かう方向、そして私の写し描きと自分の名前を添えたメモを私に見せた。
「それじゃあそこに置いておこう」
「わかった!」
ルミメィルを腕から降ろして荷物を纏めて持つ。
「それじゃあ、行こうか」
「うん!」
そうして、私とルミメィルの帰る場所を探す旅が始まった。
◯
私は再び廃墟化した大都市を歩く。
今度は1人ではなくルミメィルと2人だ。
彼は疲れか私の背中で眠ってしまったようだ。
しかし、私は足を止める。
「暑い……」
私はその言葉を発すると共にすぐにその場から距離をとる。
すると、さっきまで立っていた場所の近くの廃ビルの壁から爆発を生じて火柱が上がる。
ルミメィルが爆発音で目を覚ます。
「スペリア……さん?」
「ルミメィル。少し降りてもらえる?」
「うん……」
ルミメィルを降ろすと、それを見計らったようにルミメィルに向けて火球が飛ぶ。
ルミメィルが逃げるように背けるのに合わせて私は、火球を上に蹴り上げる。
火球を放った源には、大きな角と細く鋭い尻尾を持つ悪魔のような姿をした人物がいた。
「へぇ〜、俺様の火球を弾くなんて女のくせに結構やるじゃん?」
「この子に何の用だ!」
「そいつが持ってる
「よく分からんが、お前に渡すものなど無い!」
「それが答えか〜じゃあ、お前もそいつと一緒に焼け死ね!」
そう言って、さっきの数100倍の火球を作り出す。
「ルミメィル! 少し離れて建物の影に隠れろ!」
そう指示を出すと、ルミメィルは私から全速力で離れる。
「死ねぇ!!」
私は巨大な火球に真っ向からぶつかり合う。
「スペリアさん!」
ルミメィルが振り返って小さな手を伸ばすが、悉く想いほど届かなかった。
だが、視界に再び写ったのは絶望ではなく、希望だった。
「
空気が焦げ、一面を何者も寄せぬ赤で埋める。
爆炎を自在に
火炎の中の彼女が右手で空を切ると爆炎が勢いを増し、大地をかつて流動した激流をもしたかと思えば、それは天高く
その様はまるで爆炎を纏う龍。
背中から炎が噴き出し、翼のように広がった。
更に黒い角は錆鉄のような色に変化し、節には蜂蜜のような黄金に耀く。
「テメェ何なんだよ!」
私は無言で近づき、グッと握った拳を
「私を知らないなんて摩天に住んでる者のはずなのに世間知らずだな。良いだろう。私はスペリア=アリア、次期摩天王になる者だ!」
そう言って、再び
「覚えて帰りな!」
そのまま下顎に渾身の一撃を突き上げた。
勢いのまま打ち上げされた
スペリアが
「スペリア……さん?」
「ルミメィル。少し失礼するよ」
そう言って、私はルミメィルの視界を塞ぐように抱きしめる。
悶えるような男の声が空に轟く。
男の身体を喰い散らかす炎の龍は、身体を絡め、貫き、苦しむ声が段々、咽び泣くような声に変わる。
龍の身体からは炎が脈動し、火花が飛沫を弾く。
肉が高所から落ち、生々しい音が弾けた。
龍は、咆哮するとスペリアに向かって飛んでくる。
ルミメィルを離して、龍を背から受ける。
今までもこれからも慣れない感覚が身体中を駆け巡る。
感覚が肉を貪り、神経を焼き、脊髄に埋もれていく。
その絶望的な表情を堪えるが、どうしても涙が溢れて抑えられなかった。
「ス……スペリアさん? スペリアさん!」
私は、ルミメィルの心配するような声でハッとした。
この時には痛みが失せて体温が元に戻った。
「やっと、起きた! 良かった……」
そう掠れた声で言い、泣き出した。
私はルミメィルを強く抱きしめる。
「ごめんね。心配させてちゃったね〜。よしよし」
空は赤色に傾き、藍色が満ち始める。
私はルミメィルを抱きかかえてその場を去った。
◯
星の出た頃にはルミメィルは泣き疲れて眠っていた。
私は偶然見つけた洞穴にルミメィルを横にして着ていたコートを掛け布団代わり身体に掛けた。
集めた木材に手から生じた火を起こし、街で見つけた食糧と水を使って簡易的な夕ご飯を作る。
目が覚めたルミメィルは、私の作ったカレーライスをゆっくり食べる。
「美味しいだろうか? 私達の家族でよく食べる味だから、君の舌に合わなかったら申し訳ないのだが……」
「美味しいよ! スペリアさん、お料理上手だね!」
「ありがとう。喜んでもらえて私も嬉しいよ」
その後もルミメィルは私の作ったカレーライスを心ゆくまで食べて再び眠りについた。
私も今日の疲れでフラフラとしていた為、焚火を鎮火して地べたに横になる。
すると、ルミメィルが私に手招きする。
私はそれに従ってルミメィルの左横に寝転がる。
「眠れないのか?」
そう私が声を掛けると、ルミメィルは首を横に振る。
「スペリアさんのその服だと寒いでしょ? だから、一緒に入って〜」
「そう、ありがとう」
スペリアは、ルミメィルに掛けたコートに入る。
「ねぇ、スペリアさん」
「何?」
「質問していい?」
「いいよ」
「今日のあの蛇? あれ何だったの?」
「あれはね〜龍って言う生き物でね〜。私の遠い遠い御先祖様なんだよ」
「へぇ〜。名前はなんて言うの?」
「名前かぁ。そうだなぁ。
「イェン? カッコいい!」
「ふふっ。でしょ〜?」
「イェンがスペリアさんの身体に入っていった時にスペリアさん苦しそうだったけど、イェンは悪い奴なの?」
「悪いやつじゃないよ。確かに痛いけどね」
それからもイェンについての質問がルミメィルから次々とされた。
私は、ルミメィルに右腕を伸ばしてグッと抱き寄せた。
◯
翌朝、ルミメィルと私はコートの中で寄り添って目を覚ました。
洞穴の外から白い光芒が差し、少し肌寒い風が流れ込んだ。
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