Irregular
よろず。
Ir-S-1「Ignition-烈火序章-」
空気が焦げ、一面を何者も寄せぬ赤で埋める。
爆炎を自在に
火炎の中の彼女が右手で空を切ると爆炎が勢いを増し、大地をかつて流動した激流をもしたかと思えば、それは天高く
その様はまるで爆炎を纏う……
◯
瞳を上げると、目の前には6人の男が立ちはだかり、武器を構える。
手に持つ
この
私はそのうちの一人に注視し、それが武器を振った瞬間、
天井の支柱の一本に
6人は状況を理解しようとするが、完了する前にスペリアが行動に移す。
立方体を
スペリアは
檻の中に集束された6人は、その舞いに焼かれた。
再び高く跳び上がり、
その先に爆炎が集束し、檻の中に零れ落ちた。
檻の中に落ちた水滴のような爆炎は、
◯
炎が消え、
突き刺さった立方体は跡形もなく、一面白色だった決闘場の床のその場所だけ黒く焦げて、今だに火種が赤く発光する。
周囲には、無傷で気絶する6人。
決闘場のスピーカーから試合解説の声が響く。
「なんとぉおおお! スペリア=アリア選手! たった1人で次期摩天王候補生6人を相手取り、無傷で全員を戦闘不能に追いやった!!」
その解説とともに、私に歓声が浴びせられる。
「すげぇええ!」
「やっぱり、次の摩天王はスペリアさんで決まりだぁあ!」
「スペリア様、バンザイ!」
「バンザイ! バンザイ!」
そんな歓声に背を向けて私は
戦場を出て、観客全員の視界から隠れた瞬間、目の前に男が1人立っているのに気付く。
「スペリア選手、見事な勝利でしたね」
「何の用だ?」
私は少し不機嫌そうな声で返すが、男は続ける。
「いやぁ、そんなに嫌そうにしないで下さいよ〜。今日も変わらず、あなたの考えが変わったかどうか確認に来たんですよ〜」
「私の考えは変わらない。必ず、次の王になり不自由な大地の人々の自由を保証し、彼等の運命を狂わせる輩を撲滅する」
そう言って、私は男に自らの汗を拭ったタオルを投げつけ、さっさと帰路についた。
【翌日】
私は、昨日の男にカフェに呼び出された。
「おぉ、来た来た。こっちですよ〜」
そう陽気に手を振る。
私がそっちに行き、椅子に座る。
男は酒くさい。
「昨日から立て続けに何ですか?」
「いやぁ、とりあえず、なんか頼みなよ。お酒でもどう?」
「いえ、結構です。要件を聞かせて下さい」
「あ〜、せっかちな人だなぁ。えぇえぇ、教えてあげますよ! あなたは王から追放刑を言い渡されました」
それを聞いた私は席を黙って立ち、店の外に出る。
すると、そこには屈強な警官がいた。
「ひとつ言い残したことがあった」
そう言って、もう一度店の方を向き直す。
「私は必ずここに戻る! その時は反逆者としてこの国を潰しに!」
そう吐き捨てて、警官に着いて行った。
◯
暗闇の中に私は1人立たされる。
警報器が鳴り、ハッチが開くと、目の前に眩しい光が灯火され、暴風が私を外に攫おうとする。
ハッチの淵に立つ、私の目には雲の亀裂から荒廃した大地が写る。
私は背後に振り返り、背面からハッチを離れた。
背面に風を切る毎に飛び立ったハッチが雲に掻き消される。
完全にハッチが見えなくなってから私は翼を展開し、大空を滑空した。
しばらくすると、枯れた大地に足が付く。
◯
しばらく大地を歩いていると、かつての大都市に辿り着いた。
大きな道路は割れ、巨大なビル群の中には何棟かは土色に変色するだけ出なく、崩れていた。
この場所は時間が止まったかのようで、風もなく、音も何も感じさせない。
ただ、土色に濁った世界が私1人を避けるように佇む。
そのうち濁った視界を溶かすような雫がサーッと降り始める。
都市の土色は鈍らず、裂けた道路に潤沢し、溜まった雫は私と都市と曇天を鏡面する。
たった2人の家族を置き去りにして1人でもう帰ることのできないかもしれない旅に出ることになってしまった自分が情けなく思えて雫に混じる涙を溢した。
ひとしきり自分の行動と状況を否定した後、私は次、何をするべきか絶望する隙を与えないよう雫を拭い、一度雨宿りすることにした。
雨宿りをした先はかつて服屋だったようでまだまだ着れそうな服が沢山置いてあった。
「これなら私でも着れそうね。背中が空いているけど、こっちには上着もあるし、でもこれ男物か……。まぁ、かなり大きいでしょうけど仕方ない。あとはあった! タオル生地の服」
それら掻き集めた服や布を一度棚に置き、今着ている服を全て脱ぎ、タオル生地の服の一部を切り取ってそれを使って雫を拭う。
「一通り拭けたけど、まだ湿ってるような気がする。アレやるとしばらく服着られないからしたくないんだけど、外もあの様子じゃあしばらく着れなくても支障は出ないかな」
少し棚から距離を取り、集中する。
「
そう唱えると、全身から熱波が放たれ、周囲に白色蒸気が昇る。
「しばらく服は着れないけど、風邪引くほど寒くもないし大丈夫かな」
それから冷めるまでの間、使えそうなものを探して店内を周った。
その時、視界の奥の棚に人影を見かける。
私はそれの向かう方向に走る。
すると、棚越しの影の主も走り出す。
「はぁ……はぁ……」
荒い息遣いが棚越しに聞こえる。
その呼吸音と足音を全力で追いかけてやっと正体の腕を掴む。
「待って!」
掴む先には、1人の少年がいた。
「離して……! 離して……!」
少年の表情は、恐怖し軽蔑するかのように歪め、目尻に涙を浮かべる。
「離して!」
その言葉に私は少年の腕をゆっくり優しく離す。
離してすぐに私は少年の目線に合わせて体勢を落とし、後頭部で手を組み、更に目を閉じた。
「これなら私は君に何も出来ない。話を聞いてほしい」
すると、少年は逃げずに私の前に立つ。
「わ、わかった」
「よかった。私はスペリア=アリア。スペリアでいいわ」
「ス、スペリアさん」
「うん。君の名前は?」
「ルミメィル=ルイ。ルミメィルってよ、呼んで……ください」
「ルミメィルね。それじゃあ、ルミメィルに質問。お父さんとお母さんは?」
「逸れちゃった」
「そっか。近くにいるの?」
「分からない。でも、もうずっと会ってない」
「それじゃあ、近くには居なさそうだね。お父さんとお母さんのところに帰りたい?」
「うん!」
「それじゃあ、私の旅に付いてくる?」
「え?」
「一緒に旅をしてお父さんとお母さんに再会しよう! でも、本当に会えるの?」
そう首を傾げるルミメィルに私は肩に手を乗せて目を見て言う。
「ここで立ち止まってたって変わるのは、君のお腹の空き具合と時間と天気だけ。進めばきっと、良いことも沢山ある。約束するよ。君を必ず、両親の下に帰すって」
そう私は右手の小指を立てて、ルミメィルの前に出す。
ルミメィルは躊躇わずに私の小指に自らの小指を絡める。
「私は必ず、君をご両親の下に帰す」
「僕はどうすればいいの?」
「そうねぇ、じゃあ君はご両親の下に戻ったら、離れないであげていつか独り立ちするまでは」
「うん……わかった!」
そうして、私たちは絡めた小指を離した。
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