大規模作戦後編 人生はやり直しが効かない
飛ばされながら思ったのは過去のことだった。
5年前、俺にはとても好きだった彼女がいた。だが彼女は学校やバイト先でひどい仕打ちを受けていた。俺は彼女を頑張って励ましたり、できることを最大限やってきたつもりだった。だが彼女は目の前でビルから身を投げ、帰らぬ人となった。
もうあんなことにはしたくなかった。だが俺には気の緩みがあった。頼れる仲間と強くなった自分、わくわくの異世界生命体。俺は足手まといだった。さっきだって「オレンジ」を使うだけではなく、「白」を撃ち、他の敵を拳で殲滅するサポートをして、早く駆けつければ、俺があのとき動けていたら。そんなことが湧いて出てきた。
悩んでいても仕方ないと思い、≪door≫に向かった。空に去っていく黒い影を見た。遠くからの爆発音を聞いた。きっとあの獣が東京の他の街に行ったのだろう。だが今の俺には気にする余裕などなかった。
≪door≫付近に到着すると、そこには多くの人々の死体が転がり、血の海と化していた。俺はその様子を見て、嘔吐してしまった。そして、泣き叫んだ。皆が死んでしまったのは自分のせいではないのか。自分がもっとちゃんと戦っていたら、みんなみんな自分のせいなのではないのか。叫んでいた。すると、
「おい!どうした!急に泣き叫んだりして!なんかちょっと面白いぞ。」
納谷だった。
「は…?」
「だから!なぜ急に泣き叫ん出るんだと聞いているんだ!」
「どういう…ことだ?」
「おい、納谷今は何月何日だ!」
「はぁ?今日は3月14日で、大規模作戦前日だ。」
前日?つまり俺は夢を見ていたというのだろうか。だがあの嘔吐したときの感触や、リアルな質感だった死体たちも夢なのか?ふと思い立った俺は弱可を呼ぶことにした。あいつは頭がいいため、俺の役に立つかもしれないと思ったからだ。
「おい、弱可!出てきてくれ!」
その時納谷の頭がガクンと前方に倒れた。人格が変わるようだ。
「は、はい。なんの用でしょう…?」
「お前に聞きたいことがある。今すぐだ。」
俺は弱可に今までの経緯を話した。
「そのことから察するに、あなたの≪イレギュラー≫としての能力が発動したのでしょう。考えられる能力は≪タイムリープ≫。」
「タイムリープ…」
タイムリープという言葉とその意味は知っていた。状況から察するにその能力が俺にあるのも確かだろう。だが本当にタイムリープなのだとしたら1つ気になることがあった。
「能力に回数制限はあると思うか?」
「あります。確実に。」
「なぜ?」
「≪イレギュラー≫の能力が発動する原理は知っていますか?」
「いや、知らない。」
「≪イレギュラー≫の能力は人間の突然変異で出てきたものです。身体にある特殊なエネルギーを使いますが、そのエネルギーは回復しないため、一生で使える量が決まっています。」
「おう。」
口で言ったのはいいが、正直理解できたのは8割くらいだ。簡単なことなのに。
「ですが、」
「?」
「能力によりエネルギーの使用量は違うと考えられています。つまり、タイムリープ程の能力となれば、一生で1回、せいぜい2回といったところでしょう。つまり…あなたはもう能力が使えない可能性が高いです。」
「もう使えない…」
「ゲームで表すと残基は残り0、といったところです。」
「じゃあ、俺に協力してくれ。」
「協力…ですか?」
協力といったはいいものの、俺が行かなければ解決する話ではないのたろうか。
「自分から言っといて難だが、俺はどうしたらいいと思う?」
「そうですね…あなたの話から察するに明日皆さんが死ぬことら確実でしょう。あなたがいてもいなくても。」
「じゃあ…」
「方法が1つだけあります。明日、言う通りに行動してください。隊長たちには話をつけておきます。やり直すことはできません。慎重に。」
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