大規模作戦前編 重要な局面には足手まといもつれてかれる

「各自バスに乗り込め!」

 恒例の隊長のセリフから始まった大規模作戦は事前説明はなく、バスの中で内容を説明するという。異例だった。

「今回の任務は≪door≫を閉じることだ!」

 その言葉を聞いた瞬間バス内の空気は一気に緊張感に包まれた。「そんなことはできるのか」ということだ。俺は前に歌鍋から聞いていたため、閉じられる可能性は知っていた。

「今回はとても多くの≪olf≫が出現されることが予想されるため、まず命を第一に考えるよう、心がけてくれ!」

「≪door≫を閉じるのは能力≪身体強化≫を使った俺と納谷、歌鍋で行うため、その間の俺たちの護衛を皆に頼みたい!」

 俺は聞きながら、たしかにと納得していた。≪身体強化≫を使った隊長ならあの≪door≫を閉じられるかもしれない。歌鍋は言わずもがなだ。納谷は能力で人並み外れて器用だ。少しは活躍するだろうし、もし活躍しなくても弱可に変われば、あの人が持つ並外れた頭脳は確実に活躍するだろう。

「到着した!バスから出て、≪door≫に向かうぞ!」

 バスから出た隊員たちは列をなして歩いていく。小学校の遠足を思い出す光景だ。今回の作戦にはolf部隊すべての隊員が出動している。イレギュラー2名、特集隊員1名、女性隊員1名、その他男性隊員36名だ。

 数分歩いて≪door≫の近くに到着した俺たちはすでに空気の異様な重苦しさに気づいてた。普段ただでさえ思い空気感が、普段の数倍、重苦しくなっている。その時、

「皆、踏ん張れ!!」

 いきなり隊長の声が響いた。その刹那、空からの巨大な何かが落ちてきた。その衝撃波により数名の隊員は吹き飛ばされた。慌てて周囲を確認した俺は絶句した。周囲を大量の≪olf≫に囲まれていたからだ。

 見てみただけでブラックバード(10月に登場した鳥、番外編2参照)が2.30羽にグレータイガー(同じく10月登場、番外編2参照)が3.40匹はいる。それだけでなく体長5メートルはあると見られ、体高は4.5メートルある犬のような獣が威圧感を漂わせながら落下してきたと思われるコンクリートの穴に鎮座している。

 隊員たちは皆各々の武器を使い、応戦していく。俺は≪色彩毒≫を使った。

「オレンジ」

 俺は三フッ化リンを直接、遠くから注入した。三フッ化リンは血液に含まれるヘモグロビン上の鉄に吸着し、酸素を運ぶのを妨害する。毒性だけ見れば即効性ではないため、時間稼ぎをする必要があるが、動きは鈍くなるため、効果は十分だ。


――数分後

 俺たちのおかげでブラックバードやグレータイガーは片付いてきた。あっちの獣はどうかと振り返った。その時俺は再び絶句した。

 左腕が吹き飛ばされた隊長、歩き方からして足が折れている歌鍋、血まみれで倒れている澄通。俺は足がすくんでしまい動けなかった。だが他の隊員たちは我先にと加勢に駆けつけ、獣の攻撃により惨殺されていく。俺はそれでも動くことができなかった。そして、獣が、周囲を薙ぎ払った瞬間、何かが直ぐ側に飛んできた。それは、歌鍋の上半身だった。獣のそばに取り残された下半身と飛んできた上半身、どちらからも鮮血が吹き出している。俺は駆け寄った。

「歌鍋!」

「た…らくさん」

 歌鍋は血を吐きながら喋っている。

 歌鍋がそういった直後俺は歌鍋に押された。すると俺は数百メートル後方にとてつもない速度で押し出された。押されながら俺は「やはり自分では誰も救えない、ただの足手まといだ」と思い直していた。

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