第6話 【口座】スキル

 お父さんが書きだした僕のステータスのうち、スキルの欄を大人たちみんなでのぞき込み、声に出して読み込んでいる。


「帰属未登録の武器と魔石、アイテムを6個ずつ用意しよう」

「【口座】の容量を確かめる?」

「ああ、なるほど」


 三組の両親たちが、話し合ってソファ前のテーブルに、サイズ違い、ランク違いの魔石、短剣、解体ナイフ、名称の分からない武器、ダンジョン産のドロップ品と呼ばれるアイテムのいくつかを並べた。


 魔石というのは人外魔獣を倒した時に落ちる魔獣の動力みたいなものだ。これは冒険者ギルドで買い取ってもらえる。


小説で読んだから、魔石の事は知っているんだ。


 武器や防具は、『帰属』登録すると所持者にしか使えないと云う。盗難防止や不正取引防止措置だと云う。帰属登録していないものを『未帰属』といって、その武器は誰でも使用することもでき、売買、収納、譲渡もできると教えてもらった。


これは初めて知った。


「ハル君、【口座】というスキルを僕たちも知らないんだ。おそらく収納スキルや収納袋のような機能だと思うのだが、容量を調べてみようと思う」

「うん」


「規格が5となっているので、5種類まで入るのか、5個まで入るのか、はたまた5立方メートルサイズといったものなのかを調べてみよう」

「うん」


お父さんが主導で、【口座】スキルの検証が始まった。


6種類の色違い、大きさ違い、ランク違いの魔石を入れてみた。


「手に持って、口座スキルを使うことを意識してみて」


 お父さんに云われ、なんとなく魔石を手に取って【口座】スキルと呟くと、スッと手のひらから魔石が消えていく。わお、ザッツ・ファンタジー!


僕は心の中で大興奮だ。両手を上げて大ジャンプ!


▽【口座】スキルレベル1

魔石(ランクB)1

魔石(ランクC)2

魔石(ランクD)2

魔石(ランクE)1


と、ステータスのスキル欄に表示されたことを伝えた。


「6個が入ったか、数の制限はないのかな。種類や大きさは関係なく、魔石ランクで認識されているね」

「そうなの?」


「短剣と、解体ナイフを口座に入れてみて」

「うん」


短剣は口座にスっと入った。解体ナイフを入れようとすると


『規格数を越えたアイテムを、受け入れることはできません』


というエラーメッセージが出た。それを声に出して伝えた。


「では、同じサイズの短剣なら入るかな?これを入れてみて」


テーブルに並ぶ先ほど口座に入れた同型の短剣を手に取って、口座に入れてみた。


入った。


▽【口座】スキルレベル1

魔石(ランクB)1

魔石(ランクC)2

魔石(ランクD)2

魔石(ランクE)1

短剣 2


と、ステータスのスキル欄に表示されたことを伝えた。


「次にこの魔石(ランクD)を5個以上、入れてみて」

「うん」


僕は色とりどりの魔石(ランクD)だけを摘まんでは入れを繰り返した。スムーズに口座に入れることが出来るようになった。


▽【口座】スキルレベル1

魔石(ランクB)1

魔石(ランクC)2

魔石(ランクD)10

魔石(ランクE)1

短剣 2


「10個、入ったよ」

「じゃあ、次は、お金が入るか確かめてみよう」


 テーブルの上には、札や硬貨が並んでいる。五千円札、千円硬貨、五百円硬貨を入れてみる。入らない。エラーメッセージが出た。


『規格数を越えたアイテムを、受け入れることはできません。魔石(ランクD)10個を魔石(ランクC)に変換して、次のアイテムを受け入れますか?』

『YES/NO』


「え?」


僕がエラーメッセージを読み上げると、大人たちがそれぞれ反応した。


「え?魔石の変換?」

「なんだそれは」

「どういうこと?」

「ランクDの価格ってどれくらいだっけ」


結愛ゆあ姉ちゃんの質問に、お父さんがだいたいの相場を書きだしてくれた。


▽魔石ランクと平均価格

A:オークション

B:2,000,000円~時価

C:300,000円~800,000円

D:30,000円~80,000円

E:3,000円~8,000円 

F:300円~800円

G:30円~80円


「相場的にはランクDなら可笑しくはないが、相場に流していいのか?」

「ダメだろう。中級ダンジョンから出ないはずの上位魔石が出たことになる」


「変換だけして報告をするか?」

「新スキルの報告をすれば、ハル君に報奨金が出るぞ」


「ハル君が、研究対象の検証実験で忙殺されて、冒険どころじゃなくなるぞ」

「う~ん、これは一度、信用できる機関に守秘義務契約を取り交わして相談してみるか」


「相談する際に、変換した魔石が必要になるぞ」

「変換してみるか」


 なんだか、大人たちが深刻そうな顔で話し合いをしている。冒険が出来なくなるのは嫌だな。小説でもヤバいスキルは、隠したほうがいいぜ、みたいな主人公が多かった気がする。


「レオ君、ランクCの魔石を全部取り出した後、10個のランクDをランクCに変換してみてくれるか?」

「うん」


 僕は、変換する前にランクCの魔石を2個取り出してテーブルに置いた。そしてランクDの魔石10個をランクCの魔石に変換した。


▽【口座】スキルレベル1

魔石(ランクB)1

魔石(ランクC)1

魔石(ランクE)1

短剣 2


「魔石は取り出さなくていいので、このまま現金が入るか検証を続けてみよう」

「うん」


 テーブルの上には、札や硬貨が並んでいる。五千円札、千円硬貨、五百円硬貨を入れてみる。


入った。


 この世界では、千円は札じゃなくて硬貨。ダンジョンが生まれて、千円硬貨がドロップし始めてからそうなったんだって。魔獣を倒すと硬貨がドロップするよ。硬貨をドロップする魔獣は冒険者を倒した魔獣で、ドロップしない魔獣よりも少しだけ強いんだ。



▽【口座】スキルレベル1

魔石(ランクB)1

魔石(ランクC)1

魔石(ランクE)1

短剣 2

現金 6,500円



「現金は金種に関係なく累計されたようだね。よし、このスキルの検証はここまでにしよう。ハル君の中で一番大切なものを入れるようにすると良い。それと、不明な点も多いのでこのスキルについては、ここにいる家族内の秘密だよ?守れるかな?」


「うん、誰にも言わないよ、桜には言ってもいいよね?」

「もちろんだ。このスキルについて新しい情報があったら教えるからね」


「うん」

「あとは、自分の持ち物で魔石以外に変換が出来るものがあれば、父さんたちに教えてくれるかい?」


「いいよ、何ができるかな」

「それは、色々試してみると良い。だけど人前では気を付けて、悪い人たちに利用されたり、目をつけられたりすると、厄介ごとに巻き込まれてしまうかもしれない」


「僕の読んだ本にもあったよ。なんだか怖い」

「うん、大丈夫だ、僕たち大人がハル君を守るからね、情報が洩れなければ、厄介ごとは訪れないから、みんなで気を付けよう」


【口座】スキルの検証はここでおしまいにした。


次は、【運用】スキルの検証だ。

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