第5話 ギフト【BANK】

 どれくらい寝ていたのだろう。


 目が醒めると、枕にうつぶせのままだった。体の節々が痛い。足首がスースーする。肘を使って起き上がろうとすると、肩から背中、腰に掛けてバギバギする。足もパンパンに張っている。筋肉痛かな?


「何時かな」


 呟くように声を出すと、先ほどまでの音程と違う。あれ?風邪を引いたのかな。声が低い。


「あー、あー」


喉が痛いわけじゃない。なんだろう。


首をグルンと時計回りに回して僕はベッドに腰かけた。のどが渇いた。


「あっ、ステータス!」


僕は無意識に左手首に右手を当てた。



▼ステータス 

名前 春樹はるき

年齢 10歳

職業 学生

状態 肉体進化中 身長暫定152㎝(+20)

レベル:1

スキル:【口座】【運用】

ギフト:【BANK】

装備:加護の腕輪(不可視)

加護:主神アルテの加護


え?


身長が152㎝? 昨日は130ちょっとだったはず。


 思わず腰かけていたベッドから立ち上がると、よろめいてしまった。体のバランスが上手く取れなかった。


スキル:【口座】【運用】

ギフト:【BANK】


スキルが二つあるのは本当に嬉しいんだけど、なんだろうこれ。


 ギフトも意味が分からない。僕はどれくらい喜んでいいのか困惑してしまった。ガッツポーズするほど、ダイレクトに喜べない。なんだか拍子抜けだ。


冒険者になると通信端末を貰えるから、それで調べてみようかな。


 颯太そうた兄ちゃんと結愛ゆあ姉ちゃんならわかるかな。ああ、お父さんとお母さんにも聞いてみよう。桜もいいスキルが貰えたかな。


 なんか、服がきついな。スウェットに着替えよう。手も足もなんだか伸びている。なんなら、手のひらも大きくなっている。姿見で見てみよう。僕は全部脱いだ。


つまり素っ裸。


「・・・」


僕は、薄暗い部屋の入り口に立てかけてある鏡に自分を映した。


「誰だ、これは」


 髪はボサボサに伸びて、顔も・・・鏡に近づけてみると、自分の顔だった。なんか、喉にでっぱりがある。なんだ、これ。肩幅も広くなっている。ポッチャリしていたお腹もスッキリしていて。


「うわ!」


ちんちんの周りに毛が生えている。

これか!風呂で恥ずかしいと云う理由は。


指で触ってみる、なんか縮れてない?へんなの。

確かに恥ずかしいかもしれない。


足も長くなっているし。ひょろひょろだな、僕。


 部屋のドアを開けて、階下のリビングに行こうとしたけれど、床のひんやりとした感覚で自分が素っ裸だと云うことを思い出した。


「危なっ!」


部屋を見渡すと、服が折りたたんであった。


「起きたらこれに着替えてね、母より」


 お母さんが用意してくれた服があった。きっとサイズが変わることを知っていたのだろう。僕はそれを着た。凄い。きつくない。ぴったりというか、まだ余裕がある。


 トランクスを履いて、靴下を履いて、スウェットのズボンとTシャツ、そしてスウェットの上着をきた。姿見の前でもう一度自分を映した。うん。ちょうどいい。


「だけど、誰だ、これ」


僕は鏡を指さすが、間違いなく鏡の中の自分も同じ姿勢だ。


「背が伸びたのはいいけど、変な声」


階段を降りようとすると、向かいの部屋から颯太そうた兄ちゃんが出てきた。


「あ、颯太そうた兄ちゃん、ギフトとスキルについて教えて」

「お、おう。ハルか。声変わりしたんだな。背も伸びたから一瞬、誰かわからなかった」


「変だよね、この声」

「いや、子どもの声から大人の声に変わるんだ、カッコいいぞ」


「そうなの?カッコいいなら、気にしなくていいかな」

「ああ、男はみんな声変わりをするからな、しばらくは変に感じるがすぐに慣れる」


「そっか」

「下に降りようぜ、みんな待ちかねているはずだ」


「うん」


 僕は兄ちゃんの背を追って階段を下りた。リビングに入るとみんながいた。桜の姿は見えなかった。僕の方が早く目覚めたのか。


「お母さん、服を用意してくれてありがとう」

「あら。声変わりしたのね、すっかり男の子の声。服もサイズがぴったりで良かったわ」


「うん」


 結愛ゆあ姉ちゃんが手招きでソファの隣に座るように僕を呼んだ。なんだか初対面の人を見るような目で僕を見ている。


「背が伸びたわね、私と変わらないじゃない」


 僕の正面に立って、鼻をぶつけてきた。ちょっと驚いた。唇が近い。いい匂いがする。なんだ、これ。目の前にいる結愛ゆあ姉ちゃんは昨日と変わらないのに、なんだか美人に見える。いつも見上げていたからかな?


正面から見ると凄く綺麗だ。

いや、元から綺麗な人なんだけど。ちょっとドキドキする。


「どうしたの?ハル君」

「なんだか、結愛ゆあ姉ちゃんを近くで見てドキドキしたんだ」


「あら、ハル君もお子様から男の子になって、私の美しさが理解できるようになったのね」

「あー、そんな感じなのかな?」


 なんだか、目の前に見えるキラキラした笑顔をずっと見ているのが気まずくて、僕はソファに座った。お姉ちゃんも僕の隣に座った。


 僕の横顔に視線を感じる。結愛ゆあ姉ちゃんだけじゃなくて、みんなの視線。なんだかむず痒いな。


「あとで、私が髪を切ってあげるわ」

「うん、お願い。ギフトとスキルが良くわからなくて、教えてくれる?」


「いいよ、じゃあみんなに見せてもいいと思ってから、左手首を触ってみて」

「うん」


僕は云われたまま、家族みんなに見てもいいよと思いながらステータスを開いた。


▼ステータス 

名前 春樹はるき

年齢 10歳

職業 学生

状態 肉体進化中 身長暫定154㎝(+22)

レベル:1

スキル:【口座】【運用】

ギフト:【BANK】

装備:加護の腕輪(不可視)

加護:主神アルテの加護


「2㎝、また伸びた!」

これは僕の心の中の声だ。


みんなが身を乗り出して、ステータスを覗き込んでいる。


「スキルが口座、運用、二個もあるんだね、ギフトがBANK?なんだろう、これ」


 結愛ゆあ姉ちゃんが僕のステータスを見て呟いている。いちいち、僕の顔に彼女の吐息がかかる。くすぐったいってば。


「ハル君、スキルのところを、『意思』でタップしてごらん、詳しい説明が出てくるんだけど、本人にしか見えないんだ」

「そうなの?見てみる。読み上げればいいかな」

「うん」


 お父さんの説明とアドバイスに従って、僕はステータスのところを上から順にタップを意識してみた。


開いた。ゆっくりと読み上げる。お父さんが紙に書きだしてくれているようだ。


▽レベル1 ステータス

強さ:4

速さ:4

HP:13

MP:4


▽スキル詳細

【口座】スキルレベル1

説明:財産、負債を項目別に計算

特性:所持品・ドロップ品を出し入れ可能

規格:5

分類:特殊

消費:MP:0

解放:レベル:0

条件:ギフトBANK


【運用】 スキルレベル1

説明:役立つように使える

特性:武器の扱いが上手くなる

規格:3

分類:パッシブ

消費:MP:0

解放:レベル:1

条件:少年の儀


「ちょっと、ハル君、いったんストップ」

「うん」


 僕は結愛ゆあ姉ちゃんの声で、意識を戻したのでステータス画面が消えた。これは、冒険に役立ちそうだ、ということが分かって僕自身が興奮していたようだ。いつの間にか、ソファから立ち上がっていた。

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